「ねえ、お母さん。このパンジー綺麗でしょ?」

「あら、ほんと。よくこんな綺麗に育てたわね。すごいわ」

私は頑張って育てたパンジーをお母さんに見せる。

パンジーって色が二つに分かれていて、綺麗なんだ。

種類によって咲き方も微妙に違うし。

私は紫と黄色が一番好き。

明るくて、素直な感じがするんだ。

「お母さん、ほら、今日はまた新しい種を買いに行く約束してるでしょ!行こう!」

「ええ、そうね。行きましょう」

そう言って私たちは森にある家から街のほうへ向かう。


私は、野花 花。

苗字にも、下の名前にも「花」がつくでしょう?

そう、お花の花。

何を隠そう、お母さんも、私も、お花や植物が大好きなんだ。

お花ってとってもきれいで、見てると飽きない。

たまに変人扱いされるけどね。

私は18歳で、高校を卒業したてほやほや。

今は、春休みだから、お母さんと一緒に街でお花の種を買いに行くところ。

私の日課は、おうちの前にある花畑を育てて、その花をスケッチして・・・

バレエもやってるんだ。

バレエ教室に通ってるのではなくて、母さんに教えてもらってる。

お母さんは、すごいバレエが上手なんだ。

いつもなら、学校とかあるから、3日に1度のレッスンだったけど、今は午前午後、毎日!

まあ、花畑から目を放すのは、お食事の時と、バレエをする時くらいかなあ。

私たちは、3人家族で、お父さんはバスの運転手。
だから、ほとんど家にいない。

で、ちょっとのろけ話になるんだけど・・・

お母さんとお父さんはバスが出合いの場所なんだよ!ロマンティックじゃない?!

少女漫画みたいな。

いいなあ。

私もそんな恋に落ちてみたいなあ・・・って、まあそれはおいておいて。

私たちは、森の中に住んでいる。

なんでか、一度聞いたことがあるんだけど、「もう少し先にね」って言われてた。

物心ついたころはそれが、「はぐらかす」ってわかったから、もう問い詰めないけどね。

それに、森に住んでるから、逆に好都合!

誰にも花畑を邪魔されないもん。


「あ、お母さん、ついたよ!」

「それにしても花、速いわね。今日買うものは決めてるの?」

「もちろん!」

お母さんは、すっごい美人。
怖いくらい。

で、天然。

それがいいところなのかは分からないけど。

私は、お嬢様ってよく言われたりするけど、実は空手初段!

結構、運動神経は良いほうだよ。

私も年頃の女の子に比べれば、筋トレはしてる。

だけど、この見た目で守られガールなんだって。

私はどちらかというと、守るガールのほうがいいんだけどなあ。

私の髪は紫。

お母さんと一緒。

二人で歩いてると、すごい目で見られるんだ。

それに、学校とかでもすごい目で見られる。


「花屋のおじいさん!白パンジー、朝顔、コスモス、アジサイ、スイカ、人参、玉ねぎ、パセリ、ナス、キュウリの種ください!」

私たちは常連だ。

おじいさんはにっこりと言う。

「最後のほうは、食べ物ばっかりだね。いいよ、はい。1000円いただくぜい?」

「はい、ありがとうございます!」

お母さんは、帰り道、不思議な顔をしていた。

「あら、花って、食いしん坊ね」

ちがーーーうっ!!

「ほら、自分で作った野菜で、自分で料理して、自分で食べる!」

「あら、それやっぱり食いしん坊じゃない」

む、むむむっ。

私は、買った種を胸に、ルンルンと歩く。

その時だ。


・・・お母さんが何者かに拘束された?!

振り返ると、お母さんが男たちに手首を捕らえられているところだった。

「お、お母さん!!」

「逃げてっ!!!」

お母さんは必死に叫ぶ。

私が逃げるとでも?

「お母さんを、かえしてっ!!」

私は男たちの前に仁王立ちになった。

ここは、森の中。

周りに人はいない。

どうすれば・・・・

「ウゴクト、キサキノイノチガナイゼ?」

えっ?

聞きずらい声。

でも、お母さんに刃が向いてる。

私は、動かずじっと、相手をにらみつける。

一人が歩いてくる。

思わず後ずさろうとするが、

「ウゴクナ」

こういわれたら、どうしようもない。

お母さんの命がかかっている。

男は、私を思いっきり強く押した。

「えっ・・・」

後ろは、崖だ。

ギュッと目をつぶる。

これじゃあ、受け身の姿勢をとっても、助からない。

「花っ!!」

意識がもうろうとした中で、お母さんが私を呼ぶ声が聞こえた。