その日の雨は、特に酷くて、凍えそうなくらい寒かった。

奥歯がガタガタと自分にしか聞こえない音を鳴らす。

傘を握る指先の感覚もなく、ただただ力だけがこもる。

学校からの帰り道、きっと今頃クラスメイトたちは、こんなに寒くてもカラオケに行っているんだろう。

私のように直帰してる人の方が多分珍しいんだと思う。

早く帰ったところで課題を直ぐにやるわけでもなく、この冷えた身体を早くお風呂で温めたかった。

そう思って少し早歩きしたものの…ふといつもの感覚に陥る。

そして、降りしきる雨の中、立ち止まる。

そうだ。
家に帰っても、なんだかソワソワして落ち着かなくて、その原因が家の中にある。

「…………」

けれど、私の帰る場所は、あの家だけ。

まだ高校生の私には、どうすることも出来ない事。

「ふぅ……」

緊張の混ざった溜め息が漏れる。

何も考えず、ただただ歩いた。

ひたすら歩き続け、気が付けば玄関前。

カバンの中を探り、小さな巾着袋を取り出し、その中から家の鍵を取り出した。

鍵穴に鍵を差し込もうとした時、自分の家の駐車場に目をやる。

そこには2台の車があった。

1台は母の、もう1台は…父の。

「やっぱり…帰ってきてるよね…」

肩の力を抜き、鍵を差し込む。

捻ったと同時にガチャッ!とドアが勢いよく開いた。

「…っ!!」

私は驚いて体を軽く反るような体勢になった。