高校でのテスト期間が終了して、
みな、浮かれ気分の最中、
弓道部の部員たちは化学室を借りて、
引退セレモニーが開かれていた。

 弓道部員全員と、顧問の先生が、
 集まって、黒板にお花紙で作られた
 桜とチョークで雪菜と凛汰郎の名前に
 ありがとうございましたと
 書いてあった。

 後輩たちはセレモニーが始まる前に、
 準備をしていたようだ。

 新部長の紗矢が
 ジュースのペットボトルを
 開けて、人数分の紙コップに
 飲み物を注ぎ入れた。

 さらに横には駄菓子が乗せられた
 紙皿が置いてある。


「あ、これ、知ってる。
 美味しいよね、わさびのり。
 このフルーツのお菓子も。」

 後輩たちは、駄菓子に話が
 盛りあがっていた。

「準備はこれくらいでいいかな。
 寄せ書きもラッピングしたし。
 あとは、先輩方、お2人が来るのを
 待ちましょう。」

 ざわざわと化学室は部員たちで
 騒がしくなっていた。

 その頃、凛汰郎はラウンジで、
 飲み物を買っていた。

 教室でイヤホンで音楽を聴きながら
 時間潰ししていたが、
 凛汰郎がいないことに気づいて、
 学校内を探し回っていた。

 自販機からガコンとペットボトルの
 ジュースが落ちてきた。

 取り出し口から取ろうとした。


「凛汰郎くん!」

雪菜が声をかけた瞬間にびっくりして、
自販機に頭をぶつけた。

「いった~。」

「ごめん、大丈夫?」

 両手を合わせて謝った。

「ああ…。んで、何?」

「いや、その。ほら、
 弓道部の引退セレモニーの時間だから
 そろそろ行かないとと思って、
 凛汰郎くん探してたよ。」

 ぶつけた頭の髪をごまかして、
 ワシャワシャとかき上げた。

 せっかくワックスをつけて、
 セットした髪が崩れた。

「あー…。」

「髪?
 女性ものだけど、
 固めるワックスあるよ?
 まとめ髪用だけど…。」
 
バックから小さい緑色の丸いワックスを
取り出した。

「悪い、借りていい?」

「うん、いいけど。」

 雪菜は凛汰郎にワックスを手渡した。
 サッサッと髪の毛につけて整えた。

「こんなもん?」

「うん。大丈夫。」

 何気ない会話でなぜかホッとする
 2人だった。

 ふんわりとした時間が流れる。

 自然の流れで、化学室へそのまま
 横に並んで移動した。

 
 ガラガラと引き戸が開くと
 クラッカーが次々と鳴った。
 
「弓道部引退セレモニーへようこそ。」

 拍手が沸き起こり、
 凛汰郎の頭にクラッカーの残骸が
 垂れ下がる。
 何も言わずに手で避けた。

 せっかくの催し物を台無しに
 してはいけないと引き攣りながら
 笑顔を振る舞った。

 後ろの方で顧問のいろはも
 見学していた。
 
 雪菜は終始、笑顔でいつも通りに
 振る舞っていたが、
 そういう行事などのイベントが苦手の
 凛汰郎は無理に笑顔を作り、
 時折、窓の外に映る雲を眺めては
 時間が過ぎるのをただ待っていた。

 紗矢はプログラムを作っては
 先輩が喜ぶようにと必死に
 ビンゴゲームをしたり、
 寄せ書きのプレゼントをしたりして
 場を盛り上げた。

 ビンゴゲームの景品の特賞に
 たまたま当たったのは
 雪菜だった。
 駄菓子のてんこ盛り
 バラエティパックだった。

 みんな楽しそうにわいわい過ごしていた。

 閉会の挨拶を
 いろはが最後に口を開く。


「部長である白狼雪菜と
 副部長の平澤凛汰郎は、
 2人とも相反する性格だったけど、
 最後まで部員たちを引っ張ってくれて
 活躍してたと思います。
 雪菜が入院した時はどうなるかと
 ヒヤヒヤする部分があったけど、
 2人がいてこそ、この弓道部が
 成り立っていたってその時
 気づきました。
 本当にお疲れ様でした。
 そして、ありがとう!
 みんな、2人に盛大な拍手を!!」

 歓声や口笛を吹く生徒もいた。
 ずっと続けて来て
 本当に良かったと身に沁みて感じた
 瞬間だった。


 やっと終わったと、
 ぞろぞろと生徒たちは化学室を出た。


 最後に歩いていたのは
 いろはと雪菜、凛汰郎だった。

「2人がいなくなるって寂しいもんだね。
 いつもより弓道部に花が
 無くなってきたよ。」

「何言ってるんですか、先生。
 紗矢ちゃんがいるでしょう?」


「紗矢はああ見えて、人見知りだから
 部長やるのも緊張しすぎてるから
 心配なのよ。
 慣れてくれるといいんだけど。」

「えー、そうなんですか。
 私にはすごい話してくれるのに。」

「まー、それは打ち解けているからだろ。
 とりあえず、お疲れ様。
 よくがんばりました!
 気をつけて帰りなさいよ?」


 背中をポンとたたいて、
 いろはは職員室の方向に向かう。

 後ろを歩いていた凛汰郎はふぅーと
 ため息をついた。
 
「あ、そういや、凛汰郎くん。
 話あるって、ここで聞いてもいいの?」

 ついに来たと言わんばかりの顔をする
 凛汰郎は。

 一瞬、硬直した。


 廊下で佇む2人の横で、窓から
 夕陽が差し込んだ。

 また息をのむ。

 時間が長く感じられた。