「俺、佳耶のこと、好きじゃないよ」
沈黙を破った言葉は、今度は別の意味であたしに衝撃を与えた。
言葉の意味が一瞬わからなくて、思わず涼村くんを見てしまう。
涼村くんの透き通った優しい瞳が、簡単にあたしの心を鷲掴みにした。
「そもそもキスしてたっていう言い方は語弊があるな。俺はキスされたの」
キス、された?
「口は回避したけどね。されたのはこのへん」
唇のちょっと横をちょんちょんと指でたたく。
あたしはぽかん。と口が開いたまま理解が追い付かず固まった。
……どういうこと?
涼村くんはちろっとそんなあたしを見て、ゆっくりと立ち上がった。
瞳は逸らされぬまま、伸びてきたのは長い綺麗な指。
その指は、そっとあたしの頬を撫でた。
ぴりっと一瞬走った熱の痛みに、びくっと無意識に肩が揺れる。
「うづき」
甘い囁きが、耳朶を刺激する。
脳内にぴりぴりとした痛みが走って、その痛みに酔ってしまいそう。
ふいに彼の手のひらが、あたしの頭を包んで。
そのまま、引き寄せられた。
これは、あの時と似ている。
彼の胸で泣いた、あの日。
ただ、違うのは。
抱きしめる、腕の強さ。
そして耳に響く、鼓動。
あたしじゃない、心臓の音。
「きいて、うづき」
優しく甘美な声音は、どこまでも私の熱を上昇させる。
頭がくらくらして、思わずぎゅっと彼のシャツを掴んだ。
彼の胸がそっと離れてあたしを覗き込む気配がした。
思わず顔をあげると、彼の瞳とぶつかる。
どくん
なんって顔、してるんですか……!
甘いフェイスは、どこまでも色っぽくて心臓が破裂しそうだ。
「あのさ、」
紡ぎだされた言葉は、
「俺が好きなのは、卯月だよ」
考えもしなかった、"答え"だった。



