涼村くんが残っているように祈りながら教室に着くと、涼村くんはまだ教室に残っていた。
しかも運がいいことにだれもいなくて、一人でノートを開けて、勉強をしているらしかった。
まるで一枚の絵のようなその姿は、一瞬あたしの世界を支配した。
どくん どくん
勢いでここまできたけれど、いざ目の前にするとやっぱり足がすくんだ。
手が、足が、震える。
ゆっくりと深呼吸をして、呼吸を整える。
頑張るんだ、りん。
気合いだけでその扉を開け放つ。
涼村くんがノートからあたしに視線を移した。
「す、ずむら、くん」
緊張しすぎて声が途切れ途切れになっていたが、涼村くんは特に気にした様子はなく、「なんか忘れ物?」とだけ聞いてきた。
無言で首を振って、扉を後ろ手で閉める。
彼の元へ足を進めて、机の前に立って、そっともらった答案用紙を差し出した。
「勉強中にごめん。これみて」
涼村くんは肩をすくめただけでなにもいわずその答案用紙に目を移した。
「これ⋯⋯」
「うん。今日のテスト。無理言ってコピーだけ貰ってきた」
涼村くんはその点数を見て目を瞬かせた。
「78点と75点……」
「うん。自己ベスト、大幅更新しました」
コミュニケーション英語 78点
英語表現 75点
どちらも確実にあたしの自己ベストで、誇れる点数だ。
涼村くんの指導のおかげである。
「80点には届かなかったけど」
へへ。ととぼけて笑うと、涼村くんも小さく笑ってくれた。
「三人称単数からのスタートを考えると、十分進歩しただろ」
「うん。でも焼肉は、無理だった」
「そんなの別にどうだっていいよ」
「焼肉のために見てくれてたんでしょ?」
そういって笑うと、ああ、そんなこともいったっけ。ととぼける。
「忘れてたわ。あんたがあほすぎて」
毒吐いたって知ってるよ。
涼村くんが面倒見いいことも。
優しいことも。



