「先生が、涼村くんを講師にしなかったらよかったのに」
あたしが紡ぎだした言葉に、担任は目を丸くしていた。
「そしたら、今も彼を苦手だったはずなのに」
完全に八つ当たりだが、担任は特に気にした様子もなかった。
口に指をあてて、なんかしらんがな。と前置きして、
「お前らはさー、若いんだからいっぱい悩んだらいいんだよ」
なんておっさんくさいことをいいだした。
……なにそれ。
「青い春なんだから、がむしゃらに頑張ればいんじゃね?」
眉をあげて、けらけら笑う。
「若いうちにしたことなんて、俺くらいの年になったら全部美化された思い出になるんだよ。苦いことだって、なんでも」
「……おっさん」
その発言を聞いて、担任をおっさんと正式に認定した。
もともとおっさんなんだけどね。
呟いたあたしに、担任は眉間に皺を寄せた。
「だれがおっさんじゃ。俺はまだ四十代じゃ」
「さっきのせりふ、どう考えてもおっさんでしょ」
「よしわかった。お前マイナス五点な」
担任はにっこり笑って、手元の手帳になにか書き込み始める。
「ええっ。職権乱用ですよっ!」
慌てて担任に抗議すると、担任はふんっと鼻を鳴らした。
大人気ない、この人!
「うるさい。ほら、用事終わったからとっとと帰れ。テストだけ返せ」
「いわれなくても帰りますよっ」
差し出された手に、乱暴にテストを押し付けた。
せめてもの仕返しだ。
「失礼しますっ」
吐き捨てて、担任に背中を向けると、
「卯月」
と呼び止められて振り向く。
担任はニッと口角をあげた。
「お前にしてはよく頑張ったな。胸をはっていいぞ」
なんだかそれは、くすぐったかった。
「お前にしては、は余計です」
「明日もテストだし、せいぜい赤点取らないようにな。お前、要領悪そうだし」
大口を開けて笑う担任に「放っておいてください」と返して、いーっと歯を見せた。
なんで素直に褒められないのか!
「帰ります!」
「おー。じゃあなー」
間延びした担任の声を背に、あたしは今度こそ職員室を後にした。



