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「よーし。あと少し待てよー」
目の前にある問題用紙。
これが、あたしの運命を決めるモノだ。
ごくん。とつばを飲み込む。
どうか、どうかできますように。
今までの苦労が報われますように。
「んじゃ、始め」
一斉に教室に響く、紙を裏返す音。
目に飛び込んできた英字は、さんざんやってきた敵たちだ。
これは……これ。
この問題、涼村くんが作ってくれたやつにあった。
この問題も。
あ、これ……。
「あんたさあ、時制弱いよね」
そういって教えてくれたのは、この問題。
わからなかったあたしに、わざわざ資料まで作ってきてくれて。
You must wait till the light ( turns, will turn, will have turned ) green.
これの答えは……turns。
tillは副詞節で、単純な未来は現在形だから。
……いつの間にこんなにも、英語の力がついていたのだろう。
一ヶ月前のあたしなら、確実に解けなかった問題たち。
もしかしたら留年がかかっても勘でいたかもしれない。
それが今は、彼の補習のおかげで、こんなにも理解することができる。
彼と過ごした、一ヶ月。
集大成が、このテスト。
スパルタで鬼で二重人格で。
あんなにも早く終わってほしいと思っていたのに。
今は、あの日々が、なによりも。
"愛しい"
気づけば視界は滲んでいた。
ぽとんと一粒雫が問題用紙に落ちる。
え…。
思わず手首で拭うが、涙が自制できず落ちていく。
ああ、自分で終止符を打ったのに。
英語には彼との思い出が溢れすぎていて。
忘れることなんて、できない。
ぐっと唇をかんで、ぐいっと涙を拭う。
泣いちゃだめだ。
今は、だめ。
テストに、集中しなきゃ。
がっかり、させたくない。
彼の一ヶ月を、あたしの一ヶ月を、無駄にはしないんだ。
気合だけで感情をこらえて、私はどうにか問題をすべて書き終えた。
解答欄はすべて埋めたが、あまり自信はない。
脳みそのありとあらゆる部分を使い尽くした気がする。
すんごく疲れた。



