放課後はキミと。


「てかなんでいんの?」
涼村くんがめんどくさそうにそういって、放せ、と腕を振り払った。
その感じから彼女とかではなさそうと思って少しほっとする。
「なんでって近くに来たから寄ってみたんじゃーん。連絡しようと思ったけど驚かせたかったからサプライズできてましたー」
へへっとピースサインをする彼女に、涼村くんは冷めた目をしていた。
「迷惑なんだけど」
「ひっどーい。この寒空の下待ってたのにい」
「俺、こいつ送るから」
不意に話の輪にいれられて、涼村くんがあたしを指差した。
思わずピンと背筋が伸びる。
彼女の目があたしを捕まえて、一瞬鋭くなったことをあたしは見逃さながった。
でも次の瞬間には愛想のいい笑みを浮かべていた。
「え、このこだあれ? 深月の彼女?」
「クラスメイトだよ」
容赦ないその言葉は、あたしに現実をつきつけた。


そうだ。
あたしは、ただのクラスメイトで。

可哀想だから、彼女役にさせてもらってるけど。
ほんとは、友達ですらない、ただのクラスメイト。


「そうなんだー。初めまして、佳耶(かや)っていいますぅ」
「あ、卯月凛といいます⋯⋯」
舌っ足らずの可愛い声とは裏腹に目は笑ってなかった。最近、こういった目に慣れているあたしは直感で悟る。

この子は、涼村くんが好きだ。

「ただのクラスメイトをなんで家まで送るの?」
「色々あるんだよ」
「えーなにそれー。意味深。私もついていっていい?」
「佳耶、いい加減にしろ」
涼村くんの諭すようなその言葉に、あたしの思考回路は止まった。

⋯⋯え?
頭をガツンと鈍器で殴られたような衝撃が走って、一瞬で目の前が真っ暗になった。


涼村くんが、名前を呼んだ。

あたしは、あたしなんて。

名前最初の時しか呼ばれてないのに。
しかも名前、間違えていたのに。

しかもそれから彼は一度だってあたしを苗字ですら呼んだことなくて。

いつだって、「あんた」だ。

あたしの名前、覚えてるかすらわからない。


「俺、人の名前覚えるの苦手なんだよね」
最初の、教室を思い出す。
たしかに彼はそういって、人あたりのいい笑みを浮かべていた。


その彼が、彼女の名前を呼ぶのは。


“トクベツ”だから?


……もしかしてあたし、場違い?


思えば突き放しているような口調だったけれど、源さんたちに見せているようなそっけない感じというよりは、素に近い感じだった気がする。