「……なに?」
鑑賞モードに入っていたあたしに気づいたらしく。
綺麗な顔が怪訝に歪んで、こちらを見ていた。
……あ、やば。
見すぎた。
「ううん。なんでも!」
さっと顔を伏せて、問題を解くことに集中する。
涼村くんは、息を吐いただけで追及はしなかった。
それに内心ほっとする。
あたしの気持ち、気づいてほしくない。
隠さなきゃ。この気持ちは。
ただ単純に、怖いんだ。
気付いてしまった、この気持ちに。
花開いてしまった、この気持ちに。
終止符をうたれてしまうのが、怖い。
それに気付かれたら、もう話せない。
そんなの考えただけで胸が張り裂けそうなくらい、つらい。
その後も黙々と古典を解いて、採点してもらって。
間違ったことを徹底的に叩き込まれながら、今日も補習を終えた。
帰り際、勉強道具を片付けていたら、
「……しばらく家まで、送ってくわ。一応、名目上は彼女だし」
ダッフルコートを着ながら涼村くんがいった。
その申し出に胸がキュンと高鳴る。
嬉しいけれど、やっぱり申し訳ない気持ちも強かった。
「え、でも悪いよ。今までも大丈夫だったし」
「あんたんちどのへん?」
「東区だけど……」
「じゃああんま距離変わらないし、気にしなくていいよ」
有無をいわさず、はい決定。と切り上げてしまう。
……心がきゅんきゅんうるさい。
やばい。にやける。
あたし、こんな乙女だったっけ。
「んじゃいくよ」
「う、うん!」
何の気なしに歩く廊下は、この気持ちに気付いてからは特別で。
一個分あいたこの距離でさえ、どきどきする。
並んで歩けることも、世間話をできることも、幸せだ。
「うわ、さむ⋯」
校舎から一歩出ると、冷たい風が身体にまとわりついて両腕を抱き抱える。
マフラーに顔を埋めて、校門まで歩いていると、暗い影がたっているのが見えた。
外灯に服の一部だけが照らされている。
赤いダッフルコートの下から制服のスカートがみえる。
でも、うちの学校の紺色のチェックスカートではなく、茶色のチェックスカートだった。
他校の生徒かな。
こんな時間に?
珍しいなあと思いながら眺めていると、スマホを見ていただろうその影がこちらを見た。
「あ、きたー」
綺麗なソプラノ声が聞こえた瞬間、涼村くんが止まった。
その声の主がこちらに近づいてきて、ふわりと柑橘系の香りが鼻をくすぐった。
一言でいうと、お人形さんのように綺麗な女の子だった。
丸い瞳に、整えられた眉、小さい顔、ふわゆるの髪。
スカートの下からのぞく足は細くて、華奢だった。
「帰ったかと思っちゃった」
明らかにあたしたちに投げかけられてる言葉。
その女の子はあたしを一瞥したが何も言わず、そのまま涼村くんの腕を取ってぎゅっとしがみついた。
「一緒に帰ろ、みーつき」
ーーーー!?
こんな綺麗な女子と知り合いなの?
突然の展開に完全に置いてけぼりを食らって涼村くんをみる。



