――っっっ。
馬鹿正直に跳ね上がる心臓。
髪が、頬が、触れているところが。
熱い。
どうしようもなく。
なんでこんな状況になったの?
朝からクソみたいな男に信じられないこといわれて、源さんに母子家庭だからとか決めつけられて。
涼村くんがかばってくれて、あの教室から連れ出してくれて。
突然、頭を引き寄せられた。
状況を思い返してみてもやっぱりなんでこんなことになってるかわからない。
生まれてから一度も、こんなことされたことがない。
男の子に、こんなこと。
どくん
どくん
ああ、どうか。
この音が彼に届きませんように。
「――ごめん」
混乱しきってるあたしにふりおちてきたのは。
謝罪、だった。
「……余計なことして、傷つけたな」
瞬時に思い出されるのは、源さんの言葉。
ゆっくりと、額を擦るように首を振った。
涼村くんが謝る必要なんて、ないのに。
「泣け」
なにそれ。まさかのS発言。
「こらえんの、つらいだろ。あんなこといわれて平気なやついないだろうし。俺も見てないし、泣け」
……ああ、そっか。
この人は、泣いていいよっていってくれてるんだ。
不器用な、優しさで。
罪悪感も感じながら。
ぎゅっと涼村くんの制服のスソを掴んで、顔を彼に押し付けた。
「……ごめんね」
それが、合図だった。
ダムが決壊したように、あたしの瞳からは涙がとめどなく溢れた。
悔しさと悲しさと恥ずかしさと。
様々な感情がジェットコースターのように押し寄せて、どうしたらこの感情を消化できるのかわからない。
「うっ……くっ……」
涼村くんの前で泣いてばっかりだ。
昨日から。
遠くで予鈴の音が聞こえる。
一時間目⋯もういけないや。
こんな顔で行けるわけでもないし。
初サボりだな。
しかもサボりの相手は、学校一有名で、一番苦手だったはずの彼だ。
悔しさも、悲しさも、恥ずかしさも。
この雫さえも。
彼は何も言わず、ただ受け入れてくれた。



