放課後はキミと。



「え、ちょっと待って」
「今、彼女って言ったよね?」
「え? 涼村くんと卯月さん付き合ってんの?」
静かに見守っていたクラスメイトは息を取り戻したかのようにざわざわと色めきたつ。

あたしの隣にいた紗世も、安田くんも、驚いて言葉を失っているようだった。


「ちょっと待ってよ!」


そのざわめきに終止符を打ったのは、源さんだった。

源さんはずかずかこっちにやってきて、安田くんを押しのけて涼村くんの前に立った。
ゆらゆらと瞳が揺れている。
「深月、今の、うそだよね?」
「うそじゃねえよ」
確認のようにつぶやいた言葉は否定されて。
源さんは少しの間目をぱしぱしさせたあと、あたしを捕らえるように睨んできた。
「あんた、うそついたの?」
源さんの手が伸びてきて、あたしの腕を掴んだ。
「こないだ深月と付き合ってないっていったよね!?」
「俺が、内緒にしようっていったんだ」
すごい剣幕であたしに迫ってきた源さんを諭すように、涼村くんが続けていった。
「俺のせいでこうなるかもって思ったから、内緒にしようって」
「うそ!! だって話してるのなんてみたことなかったもん!」
涼村くんの言葉をはねのけて、源さんは掴んでるあたしの腕にさらに力を込めた。
「あんた、深月に同情でもされたの?」
「え?」
「媚びうったんでしょ? あたしかわいそうでしょって! 母子家庭だからパパ活するしかなくてとかいったんでしょ!」


ーーーー!!


思わず掴んでいた腕を思いっきり振り払った。


なにそれ。
なにそれなにそれ。


「好き勝手なこと、いわないでよ」
自分でも驚くほど、静かで冷静な声が出た。
そんなあたしの様子に、源さんも周りのクラスメイトも目を丸くしているのがわかる。
「あたしは、パパ活もしてないし、媚びもうってないし、母子家庭とかそんなこといって同情してもらったこともありません」


怒りで我を忘れてしまいそうだった。

なんで母子家庭だからとか、そんなことまで中傷の的にされなければならないの。
あたしが一体、なにをした。
こんな侮辱を受けないといけないほど、なにか悪いことをしたのか。


あたしの巡る思考を止めたのは、あたしの手首を掴んだ温もりだった。


「……ちょっと、出るぞ」
有無をいわさず、そのまま引っ張られる体。


……え?


こそこそ話しながら視線をあわしあうクラスメイト。
完全に置いてけぼりになった安田くんと紗世。
泣きそうな顔をしている源さん。

それらをまるでスクリーンの映画を見てるような感覚で見て、あたしは涼村くんに引っ張られるまま教室の外へ向かって歩いた。

後ろ手にドアを閉めようとした涼村くんは、一瞬考えてから教室をふりかえって、

「証拠もない悪意に満ちた噂信じるなんて、俺は馬鹿だと思うけど、信じるのは個人の自由。でもこれ以上こいつ振り回したり、なにか手だすんだったら、覚悟しとけ」

はっきりそういって、ぴしゃん。と力強くドアを閉めた。


その先広がったどよめきが、なにをいっているのかまではあたしはわからなかった。