「あら? お前、うれしくないの?」
期待はずれの反応だったらしく、先生は拍子抜け。というように息を吐き出す。
「そうですね。彼のこと好きでもありませんし」
「なんだ。面白くない。悲鳴ものだろ、ふつう」
「ていうか! なんで涼村くんが勉強を教えるんですか? 先生は?」
「これでも俺は結構忙しいんだ。時間もない。そこで涼村だったら安心して任せられる。そう思ってな。遅くなっても、あいつなら安心だ」
安心て。
そんな人任せな。
「なに。あいつにも悪いからな。せいぜい一ヶ月くらいだな。ちょうどテストあるし」
先生はけらけら笑いながら、そんな言葉を吐き捨てた。
いっかげつ。
彼のファンがそれを聞いたら狂喜乱舞するな、それ。
あたしにとっては何の価値もない提案だけど。
いや、でも待って。
そんなことしたら彼のファンに殺されるかも、あたし。
「で、そのテスト50点以下だったら単位落とすからな」
へえ、単位落とすのか……ってえ!?
あっさりといわれすぎて、聞き逃しそうになったけど、いやいや、ちょっと待って。
「んな無茶な!」
「あのな、これでもだいぶ譲歩してる」
「先生もわたしがほぼ赤点なの知ってるじゃないですか!」
「むしろそれで単位の危機を感じていないことが俺は疑問だがな」
ふらふらと足がおぼつかなくなって、額をおさえた。
これは本気でやばいかもしれない。
さすがに単位落とすことはないと思っていた。
先生の温情でこんなんどうにかなるんじゃないの?
「おーおー。死ぬ気でがんばれや」
冷たくあしらわれる。
「冷血教師!」
「俺はこれでも、学校一優しい先生と自負している」
しれっという先生に、あたしはぎゅっとこぶしを握り締める。
まってまって。
ほかにもやばそうな教科がいくつかあるし留年するかも。
それはまずい。
「てわけで、もう涼村には話通してるから。早く教室いってやれ」
しっしっ。と追い払われる。
そのうえ犬扱いか、こんちくしょう。
……て、え?
「教室、いってやれ?」
反芻するあたしに
「おう。もう結構待ってるはずだし」
先生は鼻歌でも歌いそうなくらい軽やかに言い放った。
「もしかして、今日からですか?」
いやまさかねという思いも込めて聞いてみる。
「思い立ったが吉日。善は急げっていうだろ」
さあっと血の気が引いてくのがわかる。
まさか、ずっと待ってるわけ?
なんてこと!!
「失礼しますっっっ!!」
噛みつく勢いでいって、だっと駆け出した。
「卯月、廊下は走るなよー」
先生の呑気な声が聞こえたけれど、かまわず走った。
目的地の教室まで、ダッシュだ。
苦手だとしても、教えてもらう身として。
教えてもらう身として、待たしたらだめでしょう!
そんな悪い印象与えたくないし!
だって、あたしの運命は彼にかかってるんだから!!



