「……あんさ」
涼村くんは一度言葉を濁して、押し黙った。
言いにくそうに視線を泳がせて、額に手を当てる。
⋯⋯?
ただ、彼をじっと見るあたしに、彼は一言。
「嫌かもしれないけど俺と付き合ってることにしとく?」
そう、いった。
…………え?
言葉の意味を理解するのに時間がかかって、フリーズする。
付き合う?
え? あたしと涼村くんが?
「フリだよ、付き合うフリ。そしたら、それの噂の方が出回るかもしれないだろ? 変な噂、消えるかもしれないし」
間抜けな顔をしたあたしに、涼村くんが補足で説明する。
あ、付き合う、フリね。そうだよね。
「で、でも涼村くんに悪いよ……」
「そんなことあんたは気にしなくていいよ。元々の原因俺だし」
「でも」
「ああ、あんたに好きな人いたら誤解されちゃうか」
「い、いません……」
「そ? でもあんたが嫌ならいいよ? なんか別の方法考える」
頬杖をついて遠くを見つめる彼に、あたしはそんなにも責任を感じてくれていることにびっくりする。
涼村くんは絶対、何にも悪くないのに。
「⋯⋯じゃあ、お願い、しようかな」
もし、それで本当にこの根も葉もない噂が鎮火するんだったら。
あたしは、涼村くんと付き合ってるって噂の方がずっといいって、思った。
「……巻き込んでごめんね」
「俺のセリフだろ、それ」
ふはっと空気が抜けるように笑う彼に、あたしも自然と笑みがこぼれた。
「俺はあんたの味方だから」
その言葉は、どんなにあたしの心を奪ったのか。
躊躇無く信じてくれたその事実に、あたしはどれだけ嬉しかったか。
「あんたはなんにも悪くないんだから、堂々と胸張ってけ」
「……うんっ」
優しく、力強く、あたしを信じてくれた彼のおかげで、今日の辛い気分なんて全部忘れることができた。
少しずつ、少しずつ。
あたしの中で彼の存在が大きくなっていることに、あたしはなんとなく気付いてた。



