放課後はキミと。



「尾崎さんがそばにいてくれてよかったよ」
何気なく言われたその一言で、「尾崎さんもしてるんじゃない? パパ活」というだれがいったかもわからない言葉が頭によみがえった。


紗世は⋯大丈夫なのかな。


「⋯⋯どうかした?」
あたしの様子の変化に気づいたのか涼村くんが声色を固くして尋ねた。
「あたし、ずるいの」
その言葉はするりと出てきた。
「紗世もあたしのせいで、変な噂がたってて⋯⋯あたしは、そんなわけないって、わかってるのに、その場で、それを聞くしか、できなくて」
あの時個室からでてその噂を否定もできない。する勇気もない。
「紗世は、本当は、あたしから、離れたいかも、しれないのに、そばに、いてくれてて」
言葉にすると涙が止まらなくなって嗚咽が混じる。
「でも、それ、は、紗世に、きけなくて、あたし、自分が、ひとり、になる、のが、こわくて、だから」


もしかしたら紗世もあたしが感じた悪意にさらされてるんじゃない?

本当は経験する必要のなかった傷を負わせてしまったんじゃないか。

微塵もそんなことを感じさせない紗世に、あたしの不安は大きくなるばかりだった。


「ずるくもなんともなくない?」

嗚咽をこらえるのに必死で言葉が続かなくなったあたしに、涼村くんがあっさりと言い放つ。

ずるくもなんとも、ない?

「誰だって自分が一番かわいくて、一人になりたくないって思うでしょ。そんなの、当たり前の感情だよ」
「でも、紗世も、もしかしたら、傷ついて⋯⋯」
「俺は、尾崎さんとほとんど話したことないからわかんないけどさ」
涼村くんは優しく続ける。
「尾崎さんも、あんたがそんなことしないってわかってて、あんたが好きだからそばにいるんじゃない?」


私は、全部嘘ってわかってるから。

あたしになにかを聞くわけでもなく、あたしを安心させてくれるために力強くいってくれた紗世。


「噂で傷つくっていうけど、あんたが離れた方が尾崎さんは傷つくんじゃないの?」
あたしはぎゅっと膝の上に置いていた拳を握る力が強くなった。
「逆の立場だったら尾崎さんと離れたいの?」
重ねて問いかけられたその質問は、考えもしなかった'もし'だった。


もし、あたしが紗世の立場だったら。
あたしは紗世と離れたいって思うのかな。

そんなこと、考えなくてもわかる。
自分が言われたらどうしようとか、変な噂に傷つくことはあるかもしれないけど。
それより、紗世が傷ついてないか、心配だと思う。
距離を置きたいなんて、思うわけもない。