胸の奥が、一瞬疼いた。
今の、なんだ。
「……え、英語、がんばるね!」
恥ずかしくなってつい目線をそらしてしまう。
「ああ、あと一週間半だしな」
「う、うん……」
そう、気づけばこんな補習をする日々も。
あと、10日近くなんだ。
……ずきん。
ずきん?
なんだ、今の。
一瞬、胸がいたくなる、今の。
“ま、りんが涼村くんに惚れたらそれはそれで面白いけどね”
唐突に、紗世の言葉を思い出す。
いや、まさかまさか。
一瞬出そうになった答えに、ありえないと首を振って、マックシェイクを飲み干した。
「涼村くん、うれしいでしょ。やっと終わって」
考えを振り払うように問いかけてみると、涼村くんはすっと表情を消した。
「……んー、これであんたが80点以上とったら俺の役目は終わりだね」
俺の、役目は、終わりだね。
反芻する。
まるで頭が気持ち悪いものに侵食されてるような、感覚。
ずきん、ずきんと主張してくる心臓。
一気に世界が、遠くなる。
そんな、感覚。
これが意味するものは、いったい、なに?
「……がんばるよ!」
そんな感覚を振り払うようにはっきりと告げると、頬杖をついた彼は意地悪く口角をあげた。
「これでとれんかったら、俺にほんとに焼肉おごれよな」
……それ、健在だったんだ。
「そうだね。涼村くんにはほんとに感謝してるから、それでもいいよ」
心の底からそう思える、不思議。
始まった時は余計なお世話!てあんなに思ってたのに。
涼村くんは目をぱちくりさせたあと、手の影があたしの顔を覆った。
……え?
思わず身構えると――デコピンされた。
「!? なんで!?」
地味に痛みを強調する額をおさえて涼村くんに問いかけると、彼はけらけら笑った。
「んなの嘘に決まってるだろ、ばーか」
「なっ、うそなんて」
「あんたは今のテストのことだけに集中したらいいの、わかった?」
「週三回も付き合わせて悪いなって思ってるのに!」
「最初頼んでないのにとかいってたやつが」
「うっ…」
「俺も、自分が勉強する手間が省けてよかったけど」
「え?」
「もう英語の勉強しなくていいくらい頭ん中入ってる」
まあ、そっか。
あんなにまとめ作ってくれたりとか、してたもんね。
「てかあんた古典もやばいんだろ?」
「え、なんで知ってるの」
いってから情報源は一つしかないことに気づいた。
くそ。あの担任め。
「次、古典もみてやるし、もってこい」
「え? いいの?」
「古典なんて暗記と国語力だけだし、そんなにテスト範囲も広くないし」
「わ、うれしい。ありがと!」
古典の勉強を自分からあまりしたくなかったのでその申し出は嬉しかった。
笑顔を向けると、涼村くんも目を細めて歯をみせて笑った。
こんな風に笑うんだ、と思うとなんだかあたししか知らない涼村くんを見つけたみたいで嬉しかった。
何気ない二人の時間が楽しくもあり、あと少しで終わるんだ。と思うと切なかった。



