「……色々、いわれんだよね」
頬杖をついて、ぼそりと一言。
あたしが首をかしげると、涼村くんは嘆息をもらした。
「あいつ、顔だけじゃんとか、顔はいいのに運動ではできないのかよだっせとかさ」
自嘲したように唇の端をあげて、遠い目をする彼は悲しげだった。
それだけでなんとなく涼村くんも涼村くんなりに苦労してきたんだなと気づく。
とても今の涼村くんからは想像できないけれど。
「この顔生まれたのは俺のせいかよって、腹立ったりもして。でも、途中からバカバカしくなってさ、あいつら見返してやるって息巻いて勉強も運動もがんばったんだよね」
これがその成果というように、ノートを手に取ってパラパラとめくる。
そこにびっしりと書かれた文字と付箋は、彼の努力の跡。
「中学入って、あほみたいに運動したから体力ついた。元々運動神経もそんな悪くなかったから人より少し上手にはできるようになったし、勉強も努力した分だけ報われた」
いわれてみれば、女子たちが運動部入ってないのに筋肉質だとか、細いけどガッシリしてるとか、きゃーきゃー騒いでたっけ。
「そうすると今度は女子が明らかに媚うりだすんだよね。「涼村くん素敵」みたいな。ステータスしかみてないのばればれだっての」
肩をすくめて苦笑する。
……その顔で、運動も勉強もできたらそうなるよね。
あたしがみたときにはすでに完成形だったので、女子からは騒がれている印象しかない。
「そんで勉強してるノートみつけて、「え、涼村くんそんな努力家の人なの? 意外」とかいって笑いだすの」
努力の証であるノートを閉じて、決まりが悪そうにあたしと目線を合わせた。
「だからあんま努力の跡見られたくないっていうか」
うるせーし。と続ける涼村くんに、そっか、と一言返す。
「でもあんたは、いわないんだな」
「ふつうは、言わないと思います」
その言葉を聞いて、空気が抜けるように彼は笑った。
……結構いわれてたのかな。いつもなにもかもを努力もせずにできるという彼の完璧イメージと違うから。
そんなこと、周りが勝手に決めたイメージなのにね。
なんて、あたしもひとのこといえないか。
勝手に苦手意識をもっていたあたしが棚に上げていえることでもない。
「俺はいつも、そんなこといわれてたよ」
なんというかそれは、周りに恵まれなかっただけのような…。
「あたしは、尊敬します」
「え?」
「だってこのノートみるだけで、わかるもん。涼村くんがどれだけ努力してるのかあたしより何倍も時間を費やして勉強しているのか」
こんなノート、みたことない。
消しては書いてを繰り返した跡。
あとから書き足していったと思えるつまづきやすいポイントが付箋で貼ってあって。
解けなかったであろう問題にはチェックがズラリと並んでいた。
ここまでやってて成績が上がらなかったら、それこそ嘘だ。
「あたしもイメージがなかったから驚いたけどさ、そこも含めて涼村くんの魅力だと思うよ」
……ん?
ほんのり頬を染めて、顔を背けてしまった涼村くんに、なにか変なことをいったかと首を傾げて。
よくよく考えたら、結構恥ずかしいことを口走ってることに気づいた。
「い、いまのは! 深い意味はなくて! きっとそういう人もいるという意味で!」
思わず弁解したけれど、よく考えたら弁解するのもおかしい!?
涼村くんはそんな焦ったあたしを見つめて、そのあと小さく吹き出した。



