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「え? 補習、ですか?」
「そうだ。補習だ」
うわあとあからさまに苦い顔をして、聞き返したあたしに。
聞き間違えじゃないというように再度強くいう先生。
職員室一角。
散乱している書類一式に、先生の性格がうかがえる。
「……居残り、ですよね?」
「当たり前だ。居残りじゃなきゃ、いつするんだ」
ですよね。
「あたし、一人で?」
「当然」
放課後残って補習?
しかも先生と二人?
うわあ、だるい。
絶対寝れないやつでしょそれ。
「別にそこまでしてあたしをいじめなくても……」
「は? むしろ俺のほうがいじめられてるだろ」
「どこがですか」
不服そうに唇を尖らしたら、ぴくぴく。と青筋が先生の額に浮かぶ。
ああ、血圧あがって早死しますよ。と思ったのは心に留めておく。
あたしの心の声が聞こえたのか先生の目が鋭くなった。
「お前、何回俺の授業寝てるんだ? え?」
それは、えっと……
思い出せる範囲で、指折り数えてみる。
「少なくとも、両手ではおさまりませんね」
けろり。というと、先生はにーっこり笑った。
「当たり前だろうが、ばかたれ! 両足たしても足りんわ!」
「いや、でもそれは先生の声があまりにも心地よく……」
α波でもでてるんじゃないかというほど。
「違うだろ。ただたんに、お昼の授業で眠いだけだろ」
アレ。バレテマシタカ。
だって今の席日当たりいいし。
「それで赤点免れてるならまだいい。だがお前、今のとこほぼ赤点。最下位といっても過言じゃないほどひどい有様」
「存じてます」
受けてるのあたしだし。
結果もらってるのあたしだし。
「なのになぜ寝るんだ」
「そりゃわからないものは、どうあがいたってわからないからです。おきていても、一緒かなと」
先生はとうとう頭を抱えだした。
はあああああ。と吹奏楽部並みに息を吐いて、うなだれている。
お気の毒です。
南無南無。
静かに合掌すると、先生は頬杖をついて、遠い目をしだした。
「お前と話していると、疲れるよ」
「あたしは結構楽しいですよ」
授業受けてるよりか、ずっとね。
そんなあたしの様子に先生はあきらめたようだった。
「……とにかく。補習は行う。そこで、特別教師をお願いした」
「は?」
特別教師?
間抜けな顔をするあたしに、先生はにやりと不適な笑みを浮かべた。
「お前、俺に感謝しろ。特別教師は、全校女子の憧れの的だ」
……憧れの的?
意味がわかんなさすぎて、首をかしげる。
なんのこっちゃ。
「その名も涼村深月だ」
先生の口から零れ落ちたその名に、一瞬背筋に冷たいものが落ちた。
涼村、深月?
切れ長の綺麗な二重に、鼻筋の通った顔立ち。
くっきりとした輪郭。
その声で甘く囁かれば、どんな絶世の美女さえも腰砕けになる。
無造作にはねたその髪さえも、美しく。
その身に纏う雰囲気が、存在が目を惹かずにはいられない。
まさに、美男子。
その上、成績は全国レベル。
スポーツはなにができないの? と聞きたいほどできて。
カリスマ的存在の彼は、うちの学校の超有名人。
……な彼が、実はあたしは苦手だったりする。
同じクラスも、あまりなりたくなかったし。
代わりたい! という声を聞くたびに、代わってあげるよ。といいそうになる。
なんでっていわれると、そんなもの、ない。
ただ、あるとすれば。
なにもしてないのにすべてを手に入れられて。
欠点と言うものが見つけられない彼が妬ましいから。
理由があるなら、そういうこと。
別にそこまで劣等感感じてるわけでもないけど。
でも、やっぱり苦手。
ていうかなんでもできすぎて怖い。



