「遅かったねー。並んでた?」
トイレから帰ってきたあたしに、紗世はいつもの調子で聞いてきた。
今日は教室じゃなくて、外で食べようって紗世が言ってくれて、中庭のベンチに座っていた。
さすがにもう1月末で寒すぎて、ひとけは少なかったけれど、それのほうがありがたかった。
「う、うん。ちょっと並んでた」
ぎこちなく笑って、隣に腰かける。
さっきの出来事があたしの脳裏にこびりついて、紗世と目が合わせられなかった。
「なんかいわれた?」
紗世がそんなあたしの様子に気づかないはずもなく、顔を曇らせて聞いてきて、あたしは小さく首を振った。
紗世も、なにかいわれてない?
あたしのせいで、紗世も変な目で見られてない?
そう聞きたいのに、言葉が出なかった。
そんなことを聞いて、紗世がどういうのか聞くのが怖い。
紗世もほんとはあたしと距離を置きたいのに、気をつかってそばにいてくれたとしたら?
明日から一人になってしまったら?
「何も言われてないよ。寒いなって思っただけ」
結局あたしは自分の身がかわいくて、1人になる勇気ももてない。
「それね。外の方がやっぱ断然寒いわ」
教室からもってきたひざ掛けをポンチョのように肩からかけて紗世は身震いしている。
「テストいけそうなの?」
話題は再来週に控えるテストの話になる。
「あー赤点とるのこわすぎて、考えないようにしてる」
「今までで赤点とるのなんて気にしてなかったくせに」
「さすがに単位ないっていわれると恐ろしすぎるし、あと涼村くんが怖い」
「そんなに怖いの?」
「鬼よ、鬼」
指を立てて、鬼のポーズをしたあたしに、声をたてて紗世は笑った。
そんな何気ない会話は、少しだけ現状を忘れさせてくれてあたしの心を軽くしてくれた。



