「What today's supper anything?」

心地いいといわれる彼の発音が、耳をくすぐる。
低音で、透き通っていて、優しい音。

その音色に聞き入ってる女子、大多数。
男子、半数。

……よっぽど魅力的らしい。
あたしにはまったくもってわからんけど。

午後一番の授業。
ぽかぽか陽気に、満腹感による眠気。
しかもあたしの席は窓際後ろから二番目の日当たり抜群。
そのうえ、子守唄代わりの心地いい声まである。

ここまで完璧にそろってるのに、寝ないなんてそれこそ人間じゃない。

……ということで、おやすみなさい。

うとうともなにもなく、夢の中までひとっとびしたあたし。


瞬間、パチコーン! というド派手な音があたしの脳天で響いた。
一瞬お星様が飛んで、叩かれたところに手を置いてまぶたをゆっくり開けると。
それはそれは笑顔の先生がいた。
笑顔だけど目は笑ってないし、口角はひくひくしている。

「あ、おはようございます。先生」
にへら。と笑いかける。
悪びれもないあたしに、先生の眉間にしわが寄る。
もう40代なのだから、あんまり怒ると皺がとれなくなりますよ、とはいわないでおいた。
「おはよう。……じゃないだろ! なに寝てんだ、おのれは」
「いや、あまりに心地よさすぎまして」

これで寝ないなんて、人間としてどうかと思いまして。

「お前は幼稚園児か。寝るにしても、起きようとする姿勢を見せろ」
「起きようとする姿勢を見せれば、寝てもかまわないんですか?」
「屁理屈こねるな」
「先生がそういったんじゃないですか」
「いっとらん!」
あたしと先生の掛け合いに、周りではクスクスと笑いが起こる。

彼は、気にもしてなさそうに感情のない瞳であたしを見つめていた。
というか、どうでもいいのだろう。
いや、もしかしたらまた馬鹿なことしてるくらいは思われているかもしれない。

「なんであれだけ英語ができないのに、寝ようとするのかわからん」
「ほら。できないものって、つまらないじゃないですか」
いってはいけない地雷を踏んでしまったらしい。
先生の顔が般若のように歪んでいくのをみてそう思った。

「お前、あとで職員室来い」
案の定、お説教と言う名の切符が渡されてしまう。

……しまった。
先生とのかけあい、面白かったからつい調子に乗ってしまった。

「こなかったら、単位落としてやる」
先生の捨て台詞に、それは職権乱用です。という後追いの言葉は無視された。

授業は再開され、またぽかぽか陽気があたしの眠気を誘う。

あー。これいつ帰れるかな。
それまで体力いるよな、うん。

てことで寝よ。
おやすみなさい。と夢の世界に旅立つあたしに。

もう一回先生の鉄拳が飛んできたのは、当然と言えば当然なのかもしれなかった。