放課後はキミと。


冗談ぽく笑ったあたしとは裏腹に、涼村くんはなにか物思いにふけるように、あたしを見ていただけだった。

感情が読み取れないその瞳にわしづかみにされて、胸が高鳴った。

気が遠くなりそうな沈黙の後、彼はようやく一言、

「ごめん」

そうつぶやいた。


……言葉の意図が、わからなかった。


「……なんで?」
ぽつんと問いかけてみると、彼は決まりが悪そうにあたしから目をそらした。
そのまま白が空気に溶け込むのを見て、息を吐いたのだとわかる。

「無神経に、バイト減らせとか遊ぶための金だろとかいったから」

ああ、そのことか。
あたしは肩をすくめて、気にしてない。という風に笑った。

「……それは仕方ないよ。ふつうは、そう思うでしょ」
「いや、でもあんた、すごいな」
突然の褒め言葉に、目を瞠る。

こないだから涼村くんが涼村くんらしくなくて、どうしたらいいのかわからない。

「同級生が、母親の気持ち考えて大学進学のために働いてる。遊ぶ時間、削ってまで。単純に、尊敬する」
「考えないといけないしねえ」
考える間もなく、言葉が滑り落ちた。
あんまりにも簡単に滑り落ちたから、なんだかおかしくて自分で笑ってしまう。


えらいとか、すごいとか、そういうことじゃないと思う。
あたしの家庭環境があたしにそうさせてて、だから考えてて。
きっとあたしも裕福な家庭に生まれていたら、なんにも考えていなかったと思う。

だから、あたしがえらいとかじゃないんだ。


「ごめん、無神経だったな」
涼村くんはあたしの言葉を聞いて、眉を八の字に曲げて謝る。
見たことのない困った様子が少し面白かった。

今日の彼はなんだかいつもと違って、変だ。

「俺、上から目線だったよな、今。でも純粋に思ったんだ、あんた、全然そんな風に見えないから」
そんな風に見えないから。はかなり余計。
「……うーん、そーゆうふうにみられるの、好きじゃないから」
ぽつんというと、涼村くんの吸いこまれそうな、透き通った瞳があたしを捕らえてくる。
逃げられない瞳から逃げたくて、顔を無理やりうつむかせた。
「やっぱりね、そういうとみんな同じ反応、するでしょ? すごいとか、えらいとか」

店長もそうだった。
若いのにえらい、とか、大人だね。とか。

でも、あたしはそんな風に思わない。

だって。


「そんなこと、ないのに。あたしはただ、考えなきゃいけないことだから考えてて。だから何不自由なく暮らしてるからこそ、そういう感想出るんだなって思っちゃうの」
「……」
「あ、わかってるよ。悪意はないって。ひがんでる、つもりはないんだけど」
涼村くんを責めてしまったことにならないかとひやひやして、あわてて繕う。
ちらっと涼村くんを盗み見ると、無表情で。その瞳は、なにを考えてるか想像できない。