「……お父さんがね、だいぶ前に亡くなってて。うち、母子家庭なの」
ようやく口を開いた時には、なぜか冷や汗が出ていた。
のども乾いている。
そういえば他人に話すの、店長以外には初めてかもしれない。
紗世もお父さんが亡くなったことはいってるけど、バイトをしていることは伝えていない。
心がざわついたけれど、ぎゅっとココアの缶を握ると、その温かさに心が落ち着いた。
ゆっくりと、言葉を確認するように口を開く。
「あたしね、妹がいるの。中三。そうするとね、やっぱり足りないの」
……なんとなく、わかってる。
その背中を、その表情を見てきた娘としては。
お母さんは仕事のこととか、家庭のこととかなんにもいわないけれど。
しんどいって。家計が苦しいってわかってる。
お母さんの顔には、皺が増えた。
お母さんの背中は、いつもひどく疲れて見えた。
お母さんの身体は、私が知っているよりいつのまにか小さくなっていた。
昔のお母さんを思い出すだけ余計に、胸が締め付けられる。
気にしなくていいのよ。なんて、そんなこと。
あんたは自分の勉強に集中しなさい。なんて、そんなこと。
きっと、大学に行けるほど家計に余裕がない。
あたしはもう、なんにもしらない子どもじゃない。
「だからね、大学のお金は少しでも、自分で出したいの」
大学に行きたい。なんて、今はまだいえない。
お母さんにこれ以上、負担をかけたくない。
だからって自分が国公立に行けるほど地頭がいいとも思えなかった。
じゃあどうする? って考えたとき、やっぱり働くしかないって思った。
効率よく稼ぐために朝にもバイトを入れて。
店長も理解してくれてて、極力希望通りにシフトを入れてくれている。
「それで進学できないなんて、笑えないけどね」
しんみりとした空気を払うように、冗談っぽく笑ってみせる。
大学に行くとかの前の問題だ。
自分でも本末転倒なことをしているのは理解している。



