「お疲れ様です」
「おつかれー」
バイト先の人たちに軽く頭を下げて、そのまま自転車置き場に向かった。
……ん?
従業員の駐輪場に影一つ。
知ってる。
最近、週三回で見ているから。
でも。
彼がここにいるはずない。と思い込んでいるあたしは、その現実を否定する。
それに反比例して、心臓の鼓動が踊る。
足音に気づいた影はそっと振り返った。
――なんで?
「すず、むら、くん?」
わかっているのに小さな声で問いかけると、影―涼村くんはばつが悪そうな顔をしていた。
「おつかれさん」
そう一言いって、ほいっとなにかを投げてくる。
「え、あ」
ポスンとキレイに手に収まったのは、あったかいココアだった。
「……ありが、とう」
どうし、たんだろう。
問いかけたいのに、問いかけられない。
当の彼も、なにからいったらいいか戸惑っているようだった。
しばしの沈黙。
この時間はなんだろう。と考えていると、彼が口火を切った。
「あんさ」
そっと彼に目を向けると、彼の瞳もあたしを見ていて、どうしたらいいかわからなくなった。
「いっこ、聞いていい?」
「……どうぞ」
「バイトは家のためって、なに?」
真摯な瞳に見つめられて。
耐え切れなくなって、視線が自然とアスファルトへ。
ああ、やっぱり気にしちゃったか。という気持ち。
そして、そんな瞳で見つめられてしまうと、嘘なんて、つけるはずないという気持ち。
しばらく、言葉がでなかった。
いろんな感情が胸に渦巻いて、どういったらいいのかわからなくなる。
どういうのが正解かわからなくて。
「……いいたくない?」
涼村くんにそう聞かれて、小さく首をふる。
別に、隠しているわけじゃない。
ただ、あんまり家庭環境を人に話すことに気が進まないだけ。
でも涼村くんなら、いいかなという気持ちになった。
口固そうだし。他人のことにとやかくいわなさそうだったから。
それでも、口を開くのにはだいぶ時間がかかった。
涼村くんはただ待っていてくれた。



