放課後はキミと。


「あんたさあ、時制弱いよね」
「え?」
「現在完了とか現在完了進行形とか苦手でしょ」
「英語は全体的に苦手です」
即答すると、そういうことじゃなくて。といわれた。
「他の単元はそこそこできてきてるけど、時制だけからっきしだめ」
例えば、と指さしたのは一番最初に間違えた問題。

「この問題。You must wait till the light ( turns, will turn, will have turned ) green.はい、まずこれの意味は?」
「……tillって何?」
「……そこがわかってないのかよ」
ため息をついて首をふると、彼は答案用紙になにやら書き足していく。

till、until、if、before、after、when、unless……。

「こないだ英語ってのはどこかで大体区切れるって話ししたよな?」
こくんとうなずく。
涼村くんはこの間レジュメまで作ってあたしに教えてくれたのだった。
全部がわかったわけではないけれど、なんとなくわかったような気もする。
「まずtillっていうのは前置詞か接続詞だ。~までというのが一般的な訳になる。mustの意味は?」

……なんだっけ。
たしか、助動詞、だったような……

「~しなければならない?」
「ん、正解。で、この文はどこで区切れる?」
えーと、tillが前置詞か接続詞ってことは……。じゃあこのthe lightは主語……?
「You must waitまで……?」
「そ。んで、ここまでの意味は?」
涼村くんはスラッシュをwaitとtillの間に入れる。
「あなたは、待たなければ、ならない」
「tillは「~まで」の意味だから?」
「……turnてどういう意味?」
「俺のターンだ!とかいうだろ」

……交代?

lightって右だよね?
greenって緑だよね?

「右が緑に変わるまで……?」
涼村くんはあからさまに呆れた顔をした。

彼のこの顔を、あたしは何度見たかわからない。

「右のスペルはrだよ」
「……あ、そっか」
「なんでライトってカタカナ英語でも使うのに間違えるんだよ」
「明かりが緑に変わるまで、あなたは待たなければならない!」
しっくりと訳がわかって、顔を輝かすあたし。
「そう。正解。で、この問題の答えだけど……」
テンションがあがるあたしを尻目にあくまで冷静な涼村くん。
「さっき書いたこの疑問詞、副詞節になると例え中身が未来であっても現在形になるんだ」

?????

顔中にハテナを浮かべたあたしに涼村くんはどういうべきかなーと頭をがしがしかく。

「ここ、つまずきやすいポイント。この後半部分、この文はなければならないものか、なくてもよいものか、どっちだと思う?」
「……必要なもの?」
「不正解。You must waitだけでも意味は通じるだろ。この文でいいたいのは、ここだけだ」

……ふはあ。
だめだ。頭パンクしそう。

フル回転させて考えてみてもさーっぱりわかんない。

そんなあたしの顔をみて涼村くんも察したらしく、ペンを置いた。

「一週間前までまともに勉強してなかったやつにわかる問題ではないか」
ごもっともです。
「んー、時制のやつ、今度紙に書いてくるわ」
わたしのためにまとめてきてくれるらしい。
「……ありがとう、ございます」
ぽつんとつぶやいた言葉に、涼村くんはそれはそれは驚いた顔をした。

「なんだ、気持ち悪いな」
「む。なんか色々してもらって悪いなって思ったからいったのに」
ふいと顔を見つめられて、しばし目が合った。

何度見ても、やっぱりキレイな顔してる。
たしかに見惚れちゃうのもわかるかも。