「大したお構いはできないけど上がって。」

果歩は、ママ友とその子どもを中へどうぞと案内した。

晃が仕事でいない昼間に時々ママ友とその子どもとの交流会が我が家では行われる。

今日来た友達は支援センターでよく会う。
男の子とそのママさんだった。

「隆二くん、うちのより大きいよね。
 月齢若いのに、育ちが良くて
 羨ましいよ。
 飲み物、カフェイン抜きが良いかな?」

「うん。そうだね。
 まだ母乳飲ませてたから。

 でも全然そんな大きさなんて
 育てばあっという間だよ。
 だって比奈子ちゃん
 来月で9ヶ月でしょう。
 うちでまだ7ヶ月で10キロあるんだよ。
 育つの早すぎて服の買い替えが
 半端ないよ?
 のんびりマイペースの方がいいって。」

「比奈は、食が細くて、
 まだ8キロしか無いよ。
 母乳、足りてないのかな。
 離乳食は始めてるんだけどさ。」

そんな話をしていると、比奈子と隆二は、ラグマットの上に下ろされた。

お米で出来た赤ちゃん用のおもちゃを握っていた比奈子はあむあむと食べていると、横には生後7ヶ月の隆二はおもちゃが気になって取ろうとしていた。


(ちょ、何?私のおもちゃを奪おうとするなんてなんてやつなの。)

 ぷんぷんと頬を膨らませて、
 顔をじっと見ていると、
 なぜか懐かしい気持ちになった。

(あれ、もしかして…。)

比奈子は急に隆二の頬をタコのように
キュウとしぼばせた。

顔の左頬にほくろがあった。

あの時と同じ。

前世の記憶が蘇る。

吸いたくもないタバコを勧めてきて、
ケタケタと笑う加藤龍次郎(かとうりゅうじろう)を思い出した。


あの時と同じ匂い、同じ感覚。
夫の晃とは違う。
イジワルしながらも、なんだかんだで
絵里香のことを見てくれていた。


「なんだよ。」

小声で話す生後7ヶ月の隆二。

「うわ、喋った。」


こちらも話に夢中になる母たちを
背に小さい声で喋った。


「うわ、赤ちゃんのくせにキモい。」
と隆二。

「いや、あんたもだから。」
と比奈子。

「俺は俺だから。」


「都合の良い解釈ですこと。」

 比奈子は、ハイハイして
 隆二のそばに寄った。

「あんた、龍次郎でしょ?
 加藤龍次郎。
 前世は。」



「だから何だっつーんだよ。」



「ここにいるってことは、
 あんた死んだの?」


「早すぎる死でしたね。
 急に訪れる心臓発作で倒れるなんて
 まるで漫画みたいに
 誰かに殺されていたりして?」


 隆二は腕を組んで比奈子を見る。

「私は何もしてないよ?」



「怪しい…。」


「疑わないでほしいな。」


「俺のこと、恨んでるだろ。
 家族巻き込んで、被害被ったから?」


「恨んでないって言ったら嘘だけど、
 トータルして、一緒にいた時間は
 充実してたよ。
 晃に会う前に龍に会えば良かったって
 思ってたし…。」


「だから、ここにいるってこと?」


「それは神のみぞ知るだね。」

ペラペラとラグマットの上でぺちゃくちゃ喋ってる姿を母親たちに見られていた。


「ねえねえ、
 あの2人、会って間もないけど
 ずいぶん、仲良くない?」

「うん。確かに。
 話盛り上がってるのかな。
 バブバブーって。」

果歩と隆二ママは笑っていた。

「ちょ、ヤバくない?
 うちらの関係バレちゃうよ。」

「まあ、バレても別に
 前世より問題ないけど
 今はまずいよな。
 とりあえず、もう少し成長してからだな。」

「そ、そうね。」

比奈子と隆二は通常通りの赤ちゃんな状態に
雰囲気を戻した。

空の上から2人の様子を見てた神様は
にわかにヒヤヒヤしていた。



「ところ構わずだな…。
 危ない危ない!」

先行きが不安になる神様だった。