BBQのママ友は無事平和に終わった
帰りの車中。

いつも助手席に乗る果歩は、
比奈子が手を繋ぎたいと後部座席で2人
並んで座った。

いつの間にか、こっくりこっくりとしている
比奈子は、寝落ちして、口を開けて眠って
いた。

果歩は、比奈子の手を繋いであげながら、
外の様子を見ながら、窓に顔をつけていた。

運転しながら、晃はバックミラーを見つつ、
果歩に話しかける。

「あのさ、楽しかったよな。
 それなりに。
 あのBBQのメニュー
 あれでよかっただろ?」

「……いいじゃない。」

顔の表情を変えずに答える。


「あと、塁と瑠美いると思わなくてさ。
 ごめんな。
 驚かせて…。」


「うん。確かに…
 びっくりした。」

「俺、詳しく果歩に教えてなかったけど
 あっちの両親に子どもには
 絶対顔を合わせないっていう条件で
 離婚手続きしたんだよ。

 でも、今日会ってしまったって感じでさ。
 まさか他県に住んでいるのに
 あの公園にいるとは思わないよね。
 そんなこともあるんだなって。」

 ハンドルを回して右折する。

 果歩はため息をつく。

「もう、あの子たちには会わないの?」

「え?だって、今日は偶然だし。
 会わないでしょ?」


「あずさに言われてたから気になって…。
 一緒に住んじゃえばって。」

「あー、あれ。
 ただ言いたかっただけだろ。
 俺は関係ないし、
 裁判で決まったことだから
 何もできないんだよ。」

「……。」


「俺、今は、
 果歩と比奈子を大事にするって
 決めたから。
 安心してよ。」

 腕を組んでまた外を眺めた。

「また、私、惨めになってる。
 昔のこと思い出す。

 一緒に私の部屋にいた時に
 帰るって言った時のあの瞬間が
 忘れられない。
 
 結婚してても、
 あの時の寂しさ忘れられない。

 未だに埋められない…。
 なんでかな。」


 目をつぶって天をあおぐ。

 比奈子は果歩の話を眠っているふりを
 しながら
 しっかり聞いていた。

(そうだったんだ。
 果歩の方が晃にゾッコンだったのかな。
 そう考えると
 私はそこまで龍に
 思い入れなかったなぁ。)
 
 晃はコンビニの駐車場にとめて
 シフトレバーをPに変えた。

 体を後部座席に向けた。

「そんなに頼りない?
 自信ない?

 どうすれば、補えるの?
 
 結婚もしてるし、
 子どももいるんだよ。」


「……わからない。
 私、どうすればいいかわからない。
 あなたのこと信じていいのかさえ
 わからなくなってる。

 ごめんなさい。
 ちょっとトイレ行ってくる。」

 コンビニのトイレに入ると
 なぜか足がプルプルと震えた。

 風邪か。精神的不安定か。

その間、比奈子はむくっと起きて
話し出す。

「ちょっとお母さん。かわいそう!!」

「え、あ、比奈子起きてたの?
 かわいそうって話聞いてたの?」

「お母さんいじめないでよ。」

「いじめてはないんだけどな。
 でも、自然に傷つけてるのかな。
 わかってあげようと努力してるつもり
 なんだけどな。
 女って難しい…。」

 ハンドルに顔を埋めた。

 比奈子は肩に手を置いて、
 人差し指を突き立てた。

 晃の頬が軽く突き刺さる。

「おい!」

「ごめんなさい。」

「?」

「謝ればいいじゃない。
 ほら、私、今、謝った。
 偉いでしょう。」

「……謝ったけど…。
 納得できない。」


 晃はふと思い出した。
 そのやり取り、確実に絵里香だった。
 喧嘩して、謝る謝らないって
 吹っかけた時に
 されたのは肩に手を置いて頬に人差し指。

 埋めた顔をあげて、頬を膨らました
 比奈子に

「……絵里香?」

 背筋が凍った。

 比奈子は体は硬直して動かなかった。

(え、バレた?
 どうすれば?)


「絵里香じゃないの?」


「え?」


「なぁ、絵里香だろ?
 比奈子に憑依してんじゃないの?」

 真剣な顔で晃は比奈子を見る。

 比奈子は冷や汗が止まらず、
 ごまかすように
 顔をぐいんと後ろに向けた。


「…俺、絵里香が生きていてくれたら
 はみ出してたかもしれないけど
 いつかは戻るつもりだったんだけどな。
 今更、そう言われても無理だよなぁ。
 信じられないよな。」
 
 フロントガラスの方に顔を向ける。

「う、嘘!?」

 思わず、声を出す比奈子。
 慌てて、口を両手で塞ぐ。

「え、今、なんか言ったよね。」

 首を横に振った。

「いや、もう。わかってるから。
 隠しても遅いし。
 左手で髪かき上げるくせとか、
 ほくろの位置とか
 あと、好きな食べ物、好きなもの
 嫌いなものとか…
 前と全然変わりないし…。
 ただ、
 3歳児ってところが大問題だけどさ。」


「……?!」
(うそ、気づいてる。
 どうしよう、どうしよう。
 声が、声が出なくなっちゃうかも。)
 
 比奈子は、口を塞いで、
 首を何度も横に振ったが、
 もう遅かったようだ。

 晃の財布の中に入っていた絵里香の
 小さな写真を取り出して、
 比奈子の顔を比べようとしたが、
 顔を両手で隠された。

「もう遅いって言っただろって。」

 改めて、ほくろの位置を確認した。
 大体合致していた。

「やっぱりな。
 比奈子ってやっぱ、
 絵里香だったんだな。」


 晃がそう発した瞬間、比奈子の目の前が
 真っ白な空間に引っ張られた。
 四次元空間にでも飛ばされた世界だった。