「比奈子パパ、すごいね。」

 あずさは、できあがったメニューを見て、感心した。

 亜梨沙も、拍手をして喜んだ。

「すごいすごい。ひなちゃんパパ、
 ナイス!」

まるでゲームで一撃が成功した時に褒められているようで、晃は嬉しかった。

 果歩は、心中、穏やかではなかったが、
 作り笑顔を必死で作って
 その場をやり過ごした。

「そんなことないよ。
 いつもの感じだって。」
(毎日しないのに、こう言う時ばかり
 張り切って、外面良いなぁ。)

「ありがとうございます!
 あまり、普段の生活で
 褒められることがないので
 嬉しいですね。
 まぁまぁ、ゆっくり召し上がって!
 子どもたちもお腹すいたでしょう?」

 その姿を見た隆二はチッと舌打ちして、
 ベンチに座って、仕方なさそうにあずさの
 横に座り、割り箸を割って、
 食べる準備をした。

「隆二、お行儀悪いよ!! 
 ほら、挨拶して。」

「いただきます。」

 母に言われたことはすぐに言うことを
 聞く。お行儀良い姿勢で挨拶した。

 比奈子はと言うと、果歩の横で
 しっかりとくっついて
 横で感情が読み取れていた。
 絶対笑う場面じゃないのに笑っている。
 無理している。
 イライラしてるんだろうなっと額の筋で
 見てとれた。

(そりゃぁ、そうだ。
 いつもの晃じゃないもの。
 キッチンなんて
 立ったことないし。
 こう言う時ばかり活躍するのもね。
 まぁ、それが目当てで
 連れてきたんだろうけど、
 私だってもやもやするわ…。)

「ほら、果歩。紙皿使うだろ?」

 ママさんたちに配り終えた後に、
 回ってきた。

「あぁ、うん。ありがとう。」

「食べられるのか?
 何がいいか言って、
 よそってくるから。」

「…自分で取れるから大丈夫。」

「ああ、そう。」

 果歩は、素直に頼めばいいのに、
 ママ友がいる手前、強がった。
 晃は2人から火加減の調整に
 炭の様子を見に行った。
 
 子どもたちとママたちは、
 お肉や晃が作ったものを紙皿によそって
 食べていた。

 家族なのにどこかよそよそしい。

 果歩と比奈子は、飲み物をとりあえず、
 飲んでから行こうと話し合っていた。


「普段からこうやって作ってるんですか?」

 亜梨沙は食べながら質問する。

 あまり聞かれたくない質問だった。
 果歩は黙ったまま、
 比奈子と一緒にカルビを焼いていた。

「えっと……たまにですかね。」

「へぇ、たまにでも作れるのいいですね。
 うちの旦那にも爪の垢飲まして
 やりたいですよ。
 全然、家事なんて、やらないですから。
 羨ましいですね。」

 あずさは、言う。

「本当、本当。」

 同意した亜梨沙。

 ここで本音を言っておいた方がいいかなと
 果歩は、ベンチにお肉を乗せた皿を置いて
 話し出す。

「うちでもそんなやらないから。 
 多分、みんなの旦那様と一緒よ。
 この場所だから張り切るの。
 キャンプ好きなんだろね。」

「あー、それわかる気がする。
 場所によってってことだよね。
 なーんだ。一緒か。
 でも、うちの場合はここに来ても
 やらないと思うよ?
 タバコずっと吸ってそうだもん。
 比奈子パパはすごいって!」

「そんな褒めたって何も出ませんよ?」

「まぁまぁ。楽しめればいいって。
 ほら、マシュマロとか焼いてみる?
 買ってきてたよ?」

 亜梨沙が竹串にマシュマロを刺して、
 炭の近くで焼いた。
 
「これをクラッカーで挟んで食べると
 美味しいのよ。」

「なるほど。」

 晃はマジマジと見た。
 マシュマロのことは
 知らなかったようで
 作り方を良く見ていた。
 白いところが少し焦げつぐのが
 カラメルソースのようで
 美味しいようだ。

 果歩と比奈子はみんなより出遅れて、
 残っていたステーキ肉とパスタパエリアに
 舌鼓していた。

 表立って食べるところを
 見られたくなかった。
 美味しいとか聞かれる前に
 食べ終わってしまおうと考えていた。

 隆二と美咲と奏多はお肉とパスタは
 すでに食べ終わっていて、
 マシュマロとポップコーンのデザートに
 なっていた。

 みんな満足そうに笑っていた。

 自分より他の人が笑顔なら
 それでもいいかと納得させた。

「お母さん、トイレ行きたい。」

「ん?そっか、わかった。
 一緒に行こう。」

比奈子と果歩は、公園のトイレにいこうと
食べていた皿をベンチに置いた。

「トイレなら、俺も行く。」

「え、隆二も? 
 待って、今行くから。」

 隆二とあずさも立ち上がって、
 比奈子を追いかけた。

「お母さん、遊具で遊んでていい?」

「うん。いいよ。」

「んじゃ、わたしも。」

 奏多と美咲は食べ終わったら
 暇になったのか 遊具遊びに
 行ってしまった。

 亜梨沙と晃の2人の時間になってしまった。
 
 パチパチの残りの炭が鳴る音がする。
 晃はもう、焼くのも終わったなと
 片付けようとした。

「あ、手伝いますか?」

「そしたら、紙皿とかのゴミ回収を
 お願いしてもいいですか?」

「了解です。」

 黙々とゴミ袋を持って、お菓子の袋のカスや、落ちていた割り箸のケースなどを拾い集めた。

「大変ですね。
 果歩さん接待。」

「…接待?」

「お姫様気質ですから。
 果歩さん。」

「あー、そうなんですか?」

「うち、旦那には期待しないで
 全部、私がするタイプなんで
 パパさん、お疲れ様ですね。」

 
「いえ、慣れているんで…。」
(うちもほとんど果歩がやっているけど。)


「本当、羨ましいです。
 うち、眼中にないので
 私のこと。」

 亜梨沙は、ゴミを拾いながら
 ポロリと涙を流した。

「子ども達にも見放されてるし…。」

「…そんなことないですよ。
 ちゃんとくっついて
 ここに来てるじゃないですか。」

 フォローするが、亜梨沙はしゃがみこむ。

 晃は、首に下げていたフェイスタオルで
 額から流れ出る汗を拭いた。

 しゃがみこんだ亜梨沙に駆け寄った。
 



 そこに・・・・。