そんなの天音くん側からしたら、知ったこっちゃないって感じよねぇ、そう呟く。

「まぁ、それが芸能人の宿命ってやつだけど」

つまり、アイドルはそのような事が起こりうる前提でやっていかなきゃならないのだ。
こんなに天音くんが人生を賭けて一生懸命仕事をしている今日も、どこかで自分を巡る喧嘩が起こっていると思うと流石に一般人の私でも同情してしまう。

「しょうがないと言えばそうなんだけど。でも、アイドルだって1人の人間なのにね」
「・・・実害まで受けているのに、何でそんなに他人事でいられるの」
「そんなことないよ」

さすがに水掛けられたのは驚いたけれど。そう言って、へらへら笑う。絡まれた時点で逃げようと思えば逃げられたのに、しなかった私も悪い。多少煽った私も悪いから今回はおあいこだ。

「でも私ね、ちょっとだけ、悲しくなった。あの人はただ純粋に天音くんが好きなだけなのに、その天音くんを困らせてることに気付かないなんて」
 
私だったら、好きな人を悲しませるようなことはしたくないな。

ひとり言のように小さく呟いた声が天音くんにも聞こえていたのかもしれない。空耳かもしれないけれど微かな「ありがとう」という声が聞こえてような気がした。