頬にあたったシャツからの洗濯の匂いと、微かに伝わってくる彼の体温。

近すぎる距離に戸惑うが、頭を引き寄せていた手が離れ、なだめるようにもう一度置かれたとき、私の目は溢れるようにして涙を浮かべてしまった。

――どれくらいの間、そうしていたのだろう。

ひと気がない廊下で、彼は私が落ち着くまで胸を貸してくれていた。



泣き止むと、彼は「座ろう」と言って、すぐそばの階段に腰を下ろした。

「――そっか。……聞けなかったんだな」

昨日メッセージを送ったところから、さっきの教室でのやり取りまで。美奈との間に起きたことを全て話すと、静かに聞いてくれていたキングは足の上でひじをついて、「んー」とつぶやいた。

「どうすっかなぁ~」

これからどう動くか考えているみたい。

その横顔を見る私は、

「あのさ」

スカートをぎゅっと掴み、意を決して声をかけた。

「もういいよ。依頼するの、やめる」

キングに説明している途中から、この気持ちが生まれていた。

「なんで?」

「“親友”だと思ってたのは……私だけだったのかもしれなくて。美奈からしたら、私って……そこまでの存在じゃないみたいだし」

首を傾げたキングに、理由を言う。

恥ずかしかった。一方的に“親友”だと思っていた自分が。

「それなのに、こんな依頼までしたら……余計に嫌われちゃう」

情けなく笑うと、彼ははぁと息をつき、

「いたっ……」

うつむく私に、軽いデコピンをしてきた。