「ごめん。……忘れ物したから、学校に戻る」

放課後、美奈と帰っていた私は、駅のそばまで来て歩くのをやめた。

「何を忘れたの? 私も一緒に戻ろっか?」

「……ううん、大丈夫」

はっきり答えなかったことで、彼女も何かを察したのだろう。

「……わかった。私はこのままバスに乗るね」

好きな人が関係しているのだな、とさとられている気がする。

美奈はやれやれと言うかのような表情をしながらも、笑って手を振っていた。


走って戻る最中、私は数十分前の光景を振り返っていた。

“またね!”

クラスメイトが帰って、わずか数名だけが残っていた教室で、美奈は寺尾に声をかけていた。

休憩では話さなくなっているけれど、これ以上気まずくならないよう、帰るときだけは挨拶をしておきたい。そう考える美奈の行動を、私はそばで静かに見守っていたのだけれど。

ちょうどそのとき、廊下を歩く相良くんを見かけた。帰ろうとする生徒たちの波に逆らって、彼は西館のほうへ向かっていたのだ。