てっきり動機から全て話さなくてはいけないものだと考えていた私は、ターゲットの名前を言うだけで事が済んでしまうことに驚いていた。
問いかけると、彼は「ああ」とつぶやきつつ、箱からカードの束を出して束ねたまま表の柄を見せてくる。
「それは君がこのゲームに勝ったらの話」
「……トランプ?」
彼は慣れた手さばきで数回カードを切って、上から1枚ずつ、計4枚のカードを表のまま手前に出す。そして、最後に残りのカードを扇子のように広げてから、探し出した1枚のカードを引き抜いた。
「ババ抜きをしよう」
そう言って見せてくる、裏の絵柄ジョーカーのカード。
「オレも忙しいからさ、依頼の全部を引き受けていたら身が持たないわけ。だから、こういうゲームをしてるのね」
「……ババ抜きを?」
「そ。今から、この5枚のうちの1枚を君に引いてもらう。見事、普通のカードを引き当てたら、縁があるってことで依頼を引き受けるよ」
テーブルの上で5枚のカードをシャッフルする彼。
その流れを見届けながら、私は困惑していた。想像していた展開からはずいぶんかけ離れていたからだ。