ひとりにされ、呆然と立ち尽くしていると、扉の向こうにいた人は、彼女と入れ違いで入ってくる。

「……キング」

誰かと思えば、黒髪のウィッグをつけた猫背の彼だった。

「あ……、今は“相良くん”か」

下まぶたを濡らしていた涙を指先で拭き、平静を装うと、彼は何も言わないまま扉を閉めた。

そして、窓際の机にあったティッシュの箱を渡してくる。

受け取るとき、私は髪の毛で隠された顔を見つめ、問いかけた。「聞いてたの?」と。

図書室にいるはずの彼が、こんなところにいるだなんて、偶然とは思えない。

「さっきね、美奈と普通に話せてたの。……元に戻れそうと思ったんだけど、急にああいう話になって。“絶交”とまで言われた」

久しぶりに話せて、嬉しかったのに。

「もう、何がなんだか……。そういえば、美奈と寺尾に何かしたの?」

気を抜いたら泣いてしまいそうで、思いつく言葉を次々と投げていた。

机に軽く腰かけてしばらく黙っていたキングは、たずねると、深いため息をついて黒髪のウィッグを外す。

「ホント、フツーに話しかけてくるな……」

彼は呆れた口ぶりでそうつぶやくと、制服の上着とシャツの上のボタンをはずし、ネクタイも緩める。

「ごめん……。なんか、混乱してて」

そういや、相良くんのときは話しかけちゃダメなんだっけ。

謝ると、猫背をやめた彼は、ふてぶてしく口を開く。

「飯、まだ食べてねぇんだろ? 向こうへ行こうぜ」

誘われて、私は保健室を後にした。