あしたのあたし

あたしは掲げられた看板を見て高槻君の真意を悟った。

「ねえ高槻君、ここホテルだよ?」

不安げな表情でたずねてみると、高槻君は何食わぬ顔で答えた。

「ああ、そうだよ。今からここでマキにお礼をしたいんだ」

「ちょ、ちょっと待って。あたしホテルなんか入ったことないよ? いきなりこんなところ連れてこられても心の準備が…」

あたしはあたふたしつつ何とかそれだけを伝える。

「大丈夫、ちゃんと俺がエスコートするから。マキは何も心配しなくていいよ」

「そうじゃなくて……っん…!?」

唐突にふさがれる唇。間近に迫った高槻君の顔。いつもの優しい目とは違う、獣のような瞳。そんないきなりの豹変ぶりにあたしは動けなくなった。

「もう付き合い始めて2ヶ月なんだ。俺に今日の“お礼”をさせてくれよ。心も体も俺の女になってくれよ」

唇は離れたけど、お互いの顔はまだ息がかかるほど近い距離にある。この距離でそんなことを言われたら、あたしはどうする事もできない。

「…うん。分かった…」

辛うじてそれだけを答えることができた。あたしは、高槻君に連れられて初めてラブホテルに入った。