そっと後ろに下りてきた男の左手をわたしは無意識のうちにつかんでいた。

どうしてこの男の手を取りたいと思ったのかはわからない。

でも、この理解できない感情に戸惑ったのは確かだった。


「あ、ごめんなさい。松葉さん」


自分でもおかしなことをしてしまったと、慌てて手を離そうとしたけれど、力強く握られて阻止されてしまう。


意味が分からない。

泣きそうになった。


「松葉さん……離してください」

「イヤだね。俺を頼ってくれたんだから、もうこの手は離さないよ」


絶対に離してもらえない右手。

説明のできない初めての感情に、まったく落ち着かない。


この男の隣は居心地が悪い。


「松葉さんなんて、キライ」

「はいはい。知ってるよ」


どうしてこの男はときどきこんな優しい声になるんだろう。

やっぱりキライだ、松葉さんなんて。