ーー
全力だった。
全力で楽しんで弾いたピアノだった。
音くんのことをずっと想って弾いてた。
私が音くんに向けている恋情を、
そのまま。ピアノにおとした。
椅子から降り、ピアノの前に立つ。
深く礼をする。
すると、
わぁ〜ーーーーーー〜〜っ!!‼︎‼︎!
パチパチパチパチ!!
沸き起こる歓声と拍手の数々。
ホール全体を包み込む熱気。
っ……!
まるで夢から覚めたかのような感覚だった。
目の前から伝わってくる熱に、驚くばかりだ。
私、上手く弾けた……、のかな……?
そのまま舞台袖の反対側に行き、通路を通り抜ける。
私は次の演奏を1ミリも聞き逃さないようにと、
早足で観客席へ向かった。
ーー
「これがラストの演奏です。20番。稲葉音。曲名はーー。」
アナウンスが入る。
直後、音くんが姿を現した。
丁寧に礼をすると、
わぁっー〜っ!‼︎
と、まだ演奏が始まっても終わってもいないのに、歓声が上がる。
私も、精一杯拍手を送った。
流れるような仕草で椅子に腰掛ける。
ふぅ
と、一呼吸する。
そして、大きな手を鍵盤に置く。
そしてーーー、
華麗な、美しい澄んだ高音が、ホール全体を満たした。
曲名は、ラヴェルの「水の戯れ」。
澄んだ綺麗な音色は、
まるで夏の空の青のような。
まるで熱帯の海の碧のような。
澄んで、
澄んで、
澄みすぎた音色は、
どこまでも青く、碧く、
光っている。
この曲は、音くんにぴったりだ。
水の美しさを表現したこの幻想的な曲は、
音くんの音色と相性がバツグン。
それに、音くんのテクニック。
あかねちゃんも凄かったけど、
それ以上の技術を音くんは持っている。
曲のあちこちに散らばる難所や決め所を、
なんてことなく容易に突破していく。
音くんの流れるようなテンポ感。
難所もなんなくこなすしなやかさ。
それはまるで、
水が姿形を変えて流れていくようで。
ピアノから溢れ落ちる音粒一つ一つが、水滴のようで。
私は、ただただ想った。
美しい
と。
あぁ、やっぱり。
音くんのピアノは私の心をこうも簡単に揺さぶる。
何気ない顔をして。
謙遜じゃなくて。
自分なんて凄くないと、本気で思っている顔をして。
音くんの奏でる一音一音が、ホール全体に美しく響く。
誤魔化しが一切無い、正面からの演奏。
音は、
どこまでも
どこまでも
澄んでいる。
音くんの演奏を聴くたびに、私はどんどん好きになる。
音くんの音を。
音くん自身を。
音くんの音、表情、体の動かし方……
音くんのパフォーマンス全てが澄んでいて、
私はその美しさに益々惹かれるんだ。
ーー
あっいっけない!‼︎
もう曲の終盤だ。
音楽に夢中になっていると、
すぐに時間が経ってしまう。
左手でメロディーをゆっくりと奏でる。
右手は、コポコポと溢れ落ちる水のように、美しいアルペジオを奏でる。
テンポが一段階落ち、曲が終わりに近づく予感がする。
そして、最後のアルペジオを、
消えるように
美しく自然に
鳴らした。
全力だった。
全力で楽しんで弾いたピアノだった。
音くんのことをずっと想って弾いてた。
私が音くんに向けている恋情を、
そのまま。ピアノにおとした。
椅子から降り、ピアノの前に立つ。
深く礼をする。
すると、
わぁ〜ーーーーーー〜〜っ!!‼︎‼︎!
パチパチパチパチ!!
沸き起こる歓声と拍手の数々。
ホール全体を包み込む熱気。
っ……!
まるで夢から覚めたかのような感覚だった。
目の前から伝わってくる熱に、驚くばかりだ。
私、上手く弾けた……、のかな……?
そのまま舞台袖の反対側に行き、通路を通り抜ける。
私は次の演奏を1ミリも聞き逃さないようにと、
早足で観客席へ向かった。
ーー
「これがラストの演奏です。20番。稲葉音。曲名はーー。」
アナウンスが入る。
直後、音くんが姿を現した。
丁寧に礼をすると、
わぁっー〜っ!‼︎
と、まだ演奏が始まっても終わってもいないのに、歓声が上がる。
私も、精一杯拍手を送った。
流れるような仕草で椅子に腰掛ける。
ふぅ
と、一呼吸する。
そして、大きな手を鍵盤に置く。
そしてーーー、
華麗な、美しい澄んだ高音が、ホール全体を満たした。
曲名は、ラヴェルの「水の戯れ」。
澄んだ綺麗な音色は、
まるで夏の空の青のような。
まるで熱帯の海の碧のような。
澄んで、
澄んで、
澄みすぎた音色は、
どこまでも青く、碧く、
光っている。
この曲は、音くんにぴったりだ。
水の美しさを表現したこの幻想的な曲は、
音くんの音色と相性がバツグン。
それに、音くんのテクニック。
あかねちゃんも凄かったけど、
それ以上の技術を音くんは持っている。
曲のあちこちに散らばる難所や決め所を、
なんてことなく容易に突破していく。
音くんの流れるようなテンポ感。
難所もなんなくこなすしなやかさ。
それはまるで、
水が姿形を変えて流れていくようで。
ピアノから溢れ落ちる音粒一つ一つが、水滴のようで。
私は、ただただ想った。
美しい
と。
あぁ、やっぱり。
音くんのピアノは私の心をこうも簡単に揺さぶる。
何気ない顔をして。
謙遜じゃなくて。
自分なんて凄くないと、本気で思っている顔をして。
音くんの奏でる一音一音が、ホール全体に美しく響く。
誤魔化しが一切無い、正面からの演奏。
音は、
どこまでも
どこまでも
澄んでいる。
音くんの演奏を聴くたびに、私はどんどん好きになる。
音くんの音を。
音くん自身を。
音くんの音、表情、体の動かし方……
音くんのパフォーマンス全てが澄んでいて、
私はその美しさに益々惹かれるんだ。
ーー
あっいっけない!‼︎
もう曲の終盤だ。
音楽に夢中になっていると、
すぐに時間が経ってしまう。
左手でメロディーをゆっくりと奏でる。
右手は、コポコポと溢れ落ちる水のように、美しいアルペジオを奏でる。
テンポが一段階落ち、曲が終わりに近づく予感がする。
そして、最後のアルペジオを、
消えるように
美しく自然に
鳴らした。



