ピアノの椅子の高さを調整し、腰掛ける。
さっきの音くんのエールを思い出す。
真剣且つ期待に溢れた優しい目が、
私の決意にダメ押しをした。
背中を強く、押されたような気がした。
ーー
遥花さんは、ゆっくりと鍵盤に手を置いた。
そして、一瞬肩が上がったかと思うと、
甘く
甘く
とろけるような
冒頭が始まった。
曲名は、シューマン、リストの「献呈」。
愛の歌だ。
前半は、流れるような滑らかな旋律で構成されている。
遥花さんは、
まるで誰かに恋焦がれているような。
愛おしい誰かに、語りかけるような。
甘い甘い恋の音色を、
ホール全体に美しく響かせていた。
舞台袖からは、表情は見えない。
けれど、
音から十二分に伝わってくる。
甘い。
とにかく甘い。
甘すぎる音色にとろけてしまいそうだ。
ねぇ、遥花さん。
あなたは誰を想って
そんな甘い音を出しているの?
ーー
曲は一旦区切られ、中間部に入った。
右手の刻むリズムが、心臓の鼓動のように聞こえる。
一定のリズムを刻んで、
トクトクトク、トクトクトク、……
恋をして、高鳴っていく胸の鼓動のように。
だんだんと右手は強く、はっきりとした音を奏でていく。
中間部では、さっきまでの甘さに加えて、キラキラとした眩しさが音に表れている。
好きな人を目の前にして、目を輝かせる。
嬉しくて、思わず頬が緩んじゃう。
そんな情景が、思い浮かぶ。
遥花さんは、自分の感情を素直に表に出してピアノを弾く。
自分が今まで経験してきたこと、
感じたことを、
ピアノにそのまま注ぎ込む。
だから、観客に伝わりやすい。
情景や感情、イメージが、観客に届きやすい。
おそらく、この会場にいる人全員が、
愛を、
恋を、
想像しているに違いない。
遥花さんの、甘く輝く音色に、会場全体は優しく包まれていた。
ーー
和音に変化が表れ、曲は後半へと向かっていく。
今は、つなぎの部分だ。
だんだんと音が強くなっていく。
一気に駆け上がる速弾き。
高音をキラッと響かせた直後、
今度は雪崩のように駆け降りていく。
だんだんと想いが強くなっていく。
想いがずしんと、重くなっていく。
そんな下降。
そして、その雪崩が終わりを迎えたかと思うと、
ダァン!‼︎
重い。だけど、甘い。
そんな「ド」の一撃が、ホールを貫いた。
直後、左手の低音がメロディーを奏でる。
優しく、でも訴えかけるような。
美しいアルトのメロディー。
そして、そのメロディーの合間に訪れる、上昇アルペジオ。
左手と右手で上手く繋ぎながら、流れるように一気に駆け抜ける。
そしてお決まりのように、最後の音はキラッと響かせる。
すごい。
本当にかっこいい。
左手のメロディーは重く、優しく、甘く。
上昇アルペジオは、訴えかけるように、キラキラと。
その絶妙なコンビネーションが、たまらない。
遥花さんの音の甘さ、輝かしさ、重さ、優しさ……
全てが、美しい。
本当に想っているからこそ出せる、
本当のピアノの音。
それがとても純粋で、素直で、かっこよくて、
美しいな
と思った。
ーー
曲はもうすぐ、クライマックスに差し掛かる。
何度目かの上昇アルペジオを終えて、
和音の連続に入った。
重く、訴えかけるような連続和音を一気に引き切る。
そして、
スゥーーっ
舞台袖まで聞こえるくらい、目一杯の息を吸うと、
バァーーーーー〜ンッ!‼︎!!‼︎
今までで一番の大音量。
迫力。
重く重く、
甘い甘い、
恋の音だった。
遥花さんは、手が小さい。
オクターブもままならないと、聞いたことがある。
そのはずなのに。
弾くのすら大変なはずなのに。
なんで、こんなに、
美しいオクターブが出せるの?
最後のクライマックス。
オクターブの音は何度か外したが、
音質が落ちることは決して無く、
遥花さんは、全力で音楽を楽しんでいた。
ーー
クライマックスが終わり、曲は終わりに向かっていく。
優しく、甘い旋律を、楽しそうに奏でる遥花さん。
そして、
最後の音を。
右手の小指の「ラ♭」の音を。
一番星以上の輝きを持った、愛と恋の音を。
響かせた。
さっきの音くんのエールを思い出す。
真剣且つ期待に溢れた優しい目が、
私の決意にダメ押しをした。
背中を強く、押されたような気がした。
ーー
遥花さんは、ゆっくりと鍵盤に手を置いた。
そして、一瞬肩が上がったかと思うと、
甘く
甘く
とろけるような
冒頭が始まった。
曲名は、シューマン、リストの「献呈」。
愛の歌だ。
前半は、流れるような滑らかな旋律で構成されている。
遥花さんは、
まるで誰かに恋焦がれているような。
愛おしい誰かに、語りかけるような。
甘い甘い恋の音色を、
ホール全体に美しく響かせていた。
舞台袖からは、表情は見えない。
けれど、
音から十二分に伝わってくる。
甘い。
とにかく甘い。
甘すぎる音色にとろけてしまいそうだ。
ねぇ、遥花さん。
あなたは誰を想って
そんな甘い音を出しているの?
ーー
曲は一旦区切られ、中間部に入った。
右手の刻むリズムが、心臓の鼓動のように聞こえる。
一定のリズムを刻んで、
トクトクトク、トクトクトク、……
恋をして、高鳴っていく胸の鼓動のように。
だんだんと右手は強く、はっきりとした音を奏でていく。
中間部では、さっきまでの甘さに加えて、キラキラとした眩しさが音に表れている。
好きな人を目の前にして、目を輝かせる。
嬉しくて、思わず頬が緩んじゃう。
そんな情景が、思い浮かぶ。
遥花さんは、自分の感情を素直に表に出してピアノを弾く。
自分が今まで経験してきたこと、
感じたことを、
ピアノにそのまま注ぎ込む。
だから、観客に伝わりやすい。
情景や感情、イメージが、観客に届きやすい。
おそらく、この会場にいる人全員が、
愛を、
恋を、
想像しているに違いない。
遥花さんの、甘く輝く音色に、会場全体は優しく包まれていた。
ーー
和音に変化が表れ、曲は後半へと向かっていく。
今は、つなぎの部分だ。
だんだんと音が強くなっていく。
一気に駆け上がる速弾き。
高音をキラッと響かせた直後、
今度は雪崩のように駆け降りていく。
だんだんと想いが強くなっていく。
想いがずしんと、重くなっていく。
そんな下降。
そして、その雪崩が終わりを迎えたかと思うと、
ダァン!‼︎
重い。だけど、甘い。
そんな「ド」の一撃が、ホールを貫いた。
直後、左手の低音がメロディーを奏でる。
優しく、でも訴えかけるような。
美しいアルトのメロディー。
そして、そのメロディーの合間に訪れる、上昇アルペジオ。
左手と右手で上手く繋ぎながら、流れるように一気に駆け抜ける。
そしてお決まりのように、最後の音はキラッと響かせる。
すごい。
本当にかっこいい。
左手のメロディーは重く、優しく、甘く。
上昇アルペジオは、訴えかけるように、キラキラと。
その絶妙なコンビネーションが、たまらない。
遥花さんの音の甘さ、輝かしさ、重さ、優しさ……
全てが、美しい。
本当に想っているからこそ出せる、
本当のピアノの音。
それがとても純粋で、素直で、かっこよくて、
美しいな
と思った。
ーー
曲はもうすぐ、クライマックスに差し掛かる。
何度目かの上昇アルペジオを終えて、
和音の連続に入った。
重く、訴えかけるような連続和音を一気に引き切る。
そして、
スゥーーっ
舞台袖まで聞こえるくらい、目一杯の息を吸うと、
バァーーーーー〜ンッ!‼︎!!‼︎
今までで一番の大音量。
迫力。
重く重く、
甘い甘い、
恋の音だった。
遥花さんは、手が小さい。
オクターブもままならないと、聞いたことがある。
そのはずなのに。
弾くのすら大変なはずなのに。
なんで、こんなに、
美しいオクターブが出せるの?
最後のクライマックス。
オクターブの音は何度か外したが、
音質が落ちることは決して無く、
遥花さんは、全力で音楽を楽しんでいた。
ーー
クライマックスが終わり、曲は終わりに向かっていく。
優しく、甘い旋律を、楽しそうに奏でる遥花さん。
そして、
最後の音を。
右手の小指の「ラ♭」の音を。
一番星以上の輝きを持った、愛と恋の音を。
響かせた。



