類はそう言うと、レシートを受け取るつもりで出した私の手を大きな手で包んだ。
かと思えば私を優しく引き寄せてゆったりとした足取りで歩いて行く。
後ろではアパレルショップの店員さんが暖かい笑顔で見送ってくれていた。
「私が嫌なの!…って、ちょっと!」
「いいから〜。お腹すいてない?」
さっき買った服は私の家に送るらしい。意地でも教えたくなかったが、「じゃあ、言いふらしてもいいの?あのコト。」と脅された。
あの意味深な笑顔で耳元で囁くイケメン。その色気に周りの人達はみんな揃って目をハートにしていた。
その中でただ1人…笑顔と囁きを受けている私だけ真顔だった。
そこでやっと悟った。
コイツに弱みを握られたら終わりだ。
弱みの使い方は特殊だけど、ダメージがでかい。
(はあ…。こんな簡単なのでいいんだ、優しいな。なんて思った自分がバカだった。しっかり私の痛いところをついてきてる。)
…とはいえ、内心はそんなに冷静ではない。
なぜか、それは今、手を握られているからだ。
平気なフリをしているが、頭はぐちゃぐちゃだし、心臓はバクバク言っている。
手は優しく握られていて、少し振り払うだけで解けそうだ。
解けばいいのになぜか体が動かない。
どうして私は振り払わないのか、そんなことを考える余裕すらなかった。
手から直接伝わる温かな温もりに心臓は暴れるが、なぜか安心した。
静寂に耐えられなくなって、手を引かれながら類に悪態をつく。
「あんたバカじゃないの?」
俯いて吐き出した言葉はいつもよりも勢いがなかった。
そんな私に気づいているのか、類は笑いを含んだ声で言った。

