「あっ、そういえばさ。体育してる時、ピアノと歌声が聞こえてさ。音楽の授業かな?」
「……へぇ、どんな曲?」
類は一瞬意味深な顔で綾那を見てからふっと逸らすと、いつも通りを装って安達に問いかけた。
(やっぱり聞こえていたんだ…。結構大声で歌ってたしね…。でも、音楽の授業だと勘違いされて良かった。)
「んーー……色々聞いてたんだけど、印象に残ってるのは最初の曲かな。それが聞いたことない曲だった!クラスの奴らに聞いても知らないんだって〜!」
(まあ、そうだろう。なにせどっかのピアノ教室の先生が作った曲らしいし。)
「その曲、知らないのになんか、すごい胸に刺さったんだよな〜。な?三田も聴いてただろ?」
安達は感動した様子で三田に同意を求めた。
それにしても歌詞やメロディもしっかり聞こえていたようだ。
「…ああ。俺は音楽は普段聞かないけど、あの歌はいいと思った。」
(……ふーん。三田って音楽あんまり聞かないんだ。でもそんな人にも響く歌を歌えていたなら、良かったな。)
そう思うと嬉しさで顔が少し緩んだ。結局のところ綾那は歌が大好きなのだ。
パチっと綾那と三田の目が合う。三田はあからさまに目を逸らした。
こいつらと付き合い始めてもう1ヶ月以上たつが、やはり三田の女嫌いは治ってないようだ。
「あっ、そういえばその歌声が、なんと!今話題の歌姫・rainの声に似てるってクラスの奴と盛り上がってたんだ!」
急に自分のことが話題に出て、驚くと同時に居心地悪くなる。
本人に話してるわけじゃないのに聞いてしまっている状況にいたたまれない気持ちになった。

