トクベツにならないで〜独占欲の強い少女は人気アイドルになびかない〜


未だ混乱状態から抜け出せない私は幼い子供のように片言になった。

「………なにか思い出した?」

類は微笑み、とても穏やかな…でもどこか切ない色を含んだ眼差しで尋ねてきた。
軽い質問のように聞こえる声色だが、彼の瞳は真剣だった。
その質問と眼差しの意図が掴めず、冷静に見つめ返す。

「…思い出すって、なにを?」

「んーー…さっきの曲のこと、とか?」

ーー曲のこと?
……確かに不思議に思っていた。その時は夢中で忘れていたが、今思えば何故私は歌えたのだろうか。
考え始めると疑問が浮かんできた。

「…不思議な感覚だった。知らない曲なのに歌詞とメロディが分かって……」

ーーそれから…少し、懐かしい気持ちになった。

それは言葉に出来なかった。先に類が話し始めたからだ。

「そっか。………じゃあ思い出してはないんだね。」

「え?」

思い、出す?
やっぱり懐かしいと感じたのは昔に知っていたから?昔、類と会ったことがあるのだろうか?それなら……


ーーどうして私は忘れているの?


「ううん。なんでもないよ。」

類はそう言って誤魔化した。……気になる反面、知りたくない気もする。
……自分の気持ちがよく分からない。
私は考えることをやめて気持ちを切り替えた。

「……そう。……ねぇ、この曲のタイトル教えてくれない?」

私はスマホを取り出して言う。結構好きな感じだったから聴いて…できたらrainとして歌おうかな、なんて考えてたら予想外の返事が返ってきた。