生で、しかもこんな間近で彼を見れるなんて日本中のファンにいったら殺されるかもしれないな。

「綾那?」

「ああ…」

なんてことをぼーっと考えていて類に顔を覗き込まれるまで返事を忘れていた。

「……今の授業って」

「体育だね。」

類はご丁寧に、窓の外…グラウンドで騒いでいるクラスメイトを指差した。
体育か……一番嫌なやつだ。

(はあ、仕方ないか。)

「…………わかった、ここにいて良いから。」

「ふふっ。やったー。」

類はとても綺麗な笑顔を浮かべ、愛嬌を見せる。
そんな類に絆されそうになる私は以外と単純なのかもしれない。

「あっ、ピアノ弾いていい?」

類は教室の端に置かれている布を被ったピアノに手をのせた。
ピアノを見るその眼差しはとても優しくて、まるで愛しい過去を振り返っているようだ。

「……いいけど、弾けるの?」

「うん。昔習ってたんだよね。兄ちゃんと姉ちゃんに連れられて。」

類は大好きなものを語るように笑って教えてくれた。きっと兄と姉のことが大好きなのだろう。

「へえ、類ってお兄さんとお姉さんいるんだ。」

「長男だと思った?よく言われるの、しっかりしてるからって。」

類はピアノの上にかかった布を退けて屋根を開けていく。スムーズにできるのは慣れているからだろう。

「……類は結構末っ子気質ある気がするけど。」

子犬みたいに人懐っこいし、要領良さそうだし…。