「綾那、今日は普通に授業受けるの?」

そんな私の気も知らない類は呑気に聞いてくる。
私を憂鬱にさせた張本人のくせに……ちょっと腹が立つ。

「うん。昨日は全部サボっちゃったから、流石に今日は頑張るよ。」

この後の授業を思い浮かべて溜め息を吐く。

「そっか。じゃあ日本史の教科書見せてくれない?忘れちゃったんだよね〜」

「いいよ。貸したげる」

「いや、貸すじゃなくて見せて。」

「どうせぼーっとするだけだし私は必要ないから。」

先生にも最初の方は注意してきたが、どんなに言い聞かせてもちっとも改心せず、授業を聞かない私に今は注意すらしなくなった。

「いやいや、ダメだって!一緒に勉強しようね!?」

類は焦ったように言い聞かせてきて真面目だなぁと感心した。

「いや、遠慮しとく」

そう言いながら私はさっきより早足で歩き、
教室のドアに手を掛ける。

「ちょっと待って〜!」
と、後ろで騒ぐ奴がいるがそんなのは無視。

ガララッ

音立ててドアを開けるとみんな一斉にこちらに目をやり、話を中断してシーンとする。
毎日こんなもんだけどやっぱり居心地悪い。

でも今日はそれだけじゃなかった。ーーー

「待ってってば〜。綾那〜。」


ーーーそう、類がいるから……


ざわっ


(あーあ…最悪……)

私としたことがこうなる事を予想できていなかった。

類と私が一緒に教室に入ってきた上に、類は私を下の名前で呼んでいたため、シーンと静まり返っていた教室が急に喧騒に包まれる。

「えっ!?待って、なんで!?」
「あの二人付き合ってるの?」
「アイドルなのにいいのかな…?」
「ええ〜ファンだったのに、ショック〜!」

(またコソコソと……聞こえてるんだけど気づいてるのかな……はぁ。)

私はみんなの声はもう聞かず、スルーして席に着く。
席に着くまでのその間も視線が痛かった。

……気分悪い。今日もサボろっかな……
いや、でも昨日サボっちゃったし……

私は机に頬杖をつき、チラッとクラスメイトに挨拶しながら歩いてくる類を見る。

きっと類もみんなの声は聞こえているだろう。

でも笑顔をキープしている。



……アイドルだからこう言う陰口や噂されるのにも慣れているのだろうか。

それでもきっと堪えるものがあるだろう。私と同じように。

…まあ、きっと私とは噂された回数が天と地ほどの差があるだろうけど。

同じと思うのもおこがましい。



転校2日目にして、もうすっかりクラスメイトと仲良くなった類は男子との会話をやめて私の隣の席に座った。

私はそれを確認して、机の中をゴソゴソと探り、あるものを取り出す。

「……ん。日本史の教科書。」

「えっ!?あとででいいよ!」

「いや、私今から寝るから。」

私はそう言って机に伏せる。

「ちょっ、ホームルーム始まるよ!起きて!」

類は寝る準備を速攻済ませた私を慌てて止めるが、残念。もうウトウトしてきた。

「んん………やだ。うるさい………。すー……」

私はもう夢の中に入ろうとしている。起こそうとしても無駄だ。
 
「ちょっとーー!起きろー!」

類の叫び声が遠くで聞こえる。
本当に真面目な奴だ。そんなずっと真面目に過ごしてたら疲れるだろうに。

そんな事を考えながら、意識は眠りの世界へ吸い込まれて行った。