「一ノ瀬さん?大丈夫?」

逢崎の声に我に帰る。
最近多いな…ぼーっとすること。

「あっ……うん。ごめん」

心配させてしまったみたいで、逢崎が眉を下げて見てくる。
申し訳ないな…。

「……そっか。」

なんかしんみりした空気になってしまった。
あ、そういえば…

「そういえば時間大丈夫?休憩時間なんでしょ?」

さっき逢崎が撮影の休憩の時に私の歌が聞こえたって言っていた。

「ああっ!?そうだった!ごめん、今すぐ行かなきゃ!!やっべぇ…」

逢崎は慌てて立ち上がる。
芸能人って大変そうだなぁ。

「バイバイ。逢崎。」

私は逢崎に軽く手を振る。もちろん笑顔はついてない。

「うん!また明日!……っていうか、逢崎じゃなくて、類って呼んで?」

急いでるんじゃなかったの?
こんなチンタラしてて良いのかな

「……わかった、類ね。…私も、一ノ瀬って呼ばないで。……私、苗字嫌いなの」

あの人たちと一緒だから…。
ああ…また気持ちが沈んでいく。
今、私はどんな顔をしているのだろう。ひどい顔だろうか。

「え……わ、わかった!じゃあ綾那ね!改めてよろしく!」

逢崎…じゃなくて、類は少し困惑したようだけど、嬉しそうに私の名前を呼んだ。
……私が訳ありなの、気がついてるかな。

「だからよろしくしないってば。それより、時間、大丈夫なの?」

「ああっ!!…じゃあ今度こそバイバイ!」

類はまた慌てて走り出す。
本当に慌ただしい人だ。

「ん。バイバイ。」

私は適当に返してイヤホンをはめた。
イヤホンからまた様々な音楽が響く。
私は目を細めて空を見上げる。
私の目線の先では、夕陽の光が白い雲に包まれた空を照らしていた。

「………また明日、か」

耳に流れる音楽に混じって消えていった私のこの言葉は、類には届かなかった。