『柊……いつ戻ってたの?』

「主からすぐ呼び戻された。姫君をもてなすとかで」

『イレギュラーでしょう、それこそ』

「それは同意する」



 柊と呼ばれた少年は笑い声を立てる。いつもながらに嬉々としたローエンの姿を見たのは、季節が反転するくらい驚きだった。


 そもそも《ローエン》である姿を見せる事も名乗る事すらしない。――あくまでも《金色の蝶》のままで終える。“興味の対象の限りなく外側です”と冷ややかなものだったから、柊も楪もそういうものだと主をずっとそんな風に認識していた、今となってはとんだ茶番だと思うが。


「楪は、彼女の事どう想う?」

「――夏椿のように儚い、死神姫かしら」

「あぁ、確かにピッタリだ」


 焼き菓子を食べる月伽はとても幸せそうで、作ってよかったと柊は思う。月並みにガトーショコラやマフィン、クッキーを用意した。


 菓子以外にも作れるようになったのだが、ローエンと楪の価値感には合わなかったようだ。向かい合って座る姿も華があって、絵になるふたりだと柊はつくづく思う。


 月伽が、柊の方に顔を向ける。


「ここへ連れてきてくれてありがとうございます。小さな案内人さん」


 今きっと、自分の顔は紅葉しているだろう。こんな夜色の美しい髪の乙女に、微笑まれ言の葉をもらったのだから。