寝てどれぐらい経っただろうか、晃は暑さで目を覚ました。
今の季節では考えられないくらい暑い。
「香織!智也!」
晃は二人を咄嗟に呼び起こしたが、そこに二人の姿は無かった。
慌てて部屋を出て二人を探すために部屋を出ると、物凄い熱気が晃を襲った。
屋敷のあちこちに火が着いていた。
熱気の正体はこれだった。
晃は香織と智也を探しながら考える。
学校の時と犯人は別で、偶々ここにも殺人鬼が?
それは流石にありえない。
香織は昨夜晃と一緒に居たから、智也か梨梨が犯人だと考えると、そこからは必死に香織を探した。
エントランスに辿り着いた晃の視界に、火だるまの人影が階段を落ちて着た。
誰だかはわからないが、シルエットから女性のものだという事だけ分かった。
「まさか…香織っ!」
香織だとは思いたくなかった。
だが、犯人が梨梨か智也だとするならば、被害者は香織である可能性が高い。
そしてこの死体は間違いなく絶命しているようだった。
遺体から火が消えない限り運び出す事も出来ない晃は、急ぎ足で外へと逃げた。
火の勢いが弱まらなければ、あの吊り橋は落ちてしまうから。


橋の中腹まで来た所で、晃はいきなり後ろからタックルでも喰らったように突き飛ばされた。
勢いよく橋の外まで転げてしまい、咄嗟に橋のロープを掴んで転落を逃れた。
宙ぶらりんの状態で顔を上げると、そこには智也の顔があった。


いや、正確には智也の頭部だけがあったのだ。
智也を殺した犯人は智也の生首を晃に投げつけた。
衝撃の余り、ついロープを掴む手を放してしまいそうになる。
改めてロープを掴み直すと、犯人は面白そうに口を歪ませて晃を眺める。
「何でなんだ……香織!」
死んだと思っていた香織の姿。
あの死体は梨梨だったのだ。
晃は香織のことを残虐な犯人と思うより、まだ遺体である方が良いと無意識に決めつけてしまっていた。
ふと、香織がほの花と仲が良かったのを、晃は今更ながらに思い出す。
「ほの花の、仇討ち、か…?」
余りの出来事に手が震えて落ちそうになるのを踏みとどまり、香織を見上げる。
きっと声も震えてしまっているだろう。
「仇?」
香織の返答は思ってもいないという表情だった。
「ふふ…ふふあーーっはははっ!違うわよ。」
盛大に笑ってみせた香織は、涙さえ浮かべて笑う。
晃はこんな香織を見た事が無い。
これは本当に香織か?
晃の頭はパンク寸前だった。
「私ね、人の苦しむ顔が好きなの。」
何を言ってるか理解が出来ない。
「苛められたほの花の辛そうな顔。内心誰よりも楽しんでる私に、頼りながら苛めの内容を話してくれるなんて最っ高だった!」
香織なのかこれは?
晃の頭痛が酷くなっていく。
「なのに…。」
スッと香織の表情が変わる。
「智也達が私の玩具を壊しちゃったんだもの。」
つまりほの花は…。
「自殺に追い込んでくれちゃって。」
香織は心底『お気に入りの玩具を奪われた子供』のような顔をしていた。
ほの花が自殺だとすると、後の連続殺人は別だったのだ。
全ては香織の犯行だった。
だとするならば…。
「ど、どうして俺まで殺すんだ?」
そろそろぶら下がっている腕に限界が近かった。
でもこの状態の香織に対して下手に動く事も出来ないでいた。
その時、いつもの香織に戻ったかのように、香織は薄く微笑んだ。
「香織…。」
「さようなら晃、貴方には恨みも何も無いんだけど、ここで貴方も殺さないと、犯行がばれちゃうからね!」
道具小屋からでも持ってきたのか、大型の刃物を、晃が掴んでいたロープへ振り下ろす香織…。
晃が最後に見た香織は、愉快そうに笑っていた。