アンハッピー・ウエディング〜前編〜

「ねーねー、悠理君」

お嬢さんは、おやつを食べる代わりに。

ダイニングキッチンの椅子に座って、こっちをじーっと見ながら話しかけてきた。

やっぱり傍で見てるんじゃないか。

…まぁ良いや。今日は元々、お嬢さんの嫌いな野菜は使わない予定だし。

疚しいこと何もしてないから、見たけりゃ勝手に見てくれ。

「…何だよ?」

「今日は何作ってるの?」

「今日はコロッケだよ」

「わーい。美味しそう」

近所のスーパーで、じゃがいもが安売りしてたから、つい。

安売りじゃがいもから作ったコロッケでも、お嬢さんは大喜びである。単純。

子供舌なんだよ。

おまけに。

「出来た?もう出来た?」

「まだだよ」

今、じゃがいも茹でてるところだから。

しかし、5分と経たないうちに。

「そろそろ出来た?」

「…まだだよ」

めっちゃ聞いてくるじゃん。

今、ひき肉に混ぜる玉ねぎを炒めてるところ。

更に5分と経たないうちに。

「もう出来た?」

「…まだだって」

幼稚園児とお母さんのやり取りかよ。

こんなでっかい幼稚園児がいてたまるか。

今、まだじゃがいもを潰してるところだから。

しかし、それからまた5分と経たないうちに。

「そろそろ出来たんじゃない?」

「まだ」

頼むから、急かすのをやめてくれ。

今、衣をつける為に冷蔵庫からパン粉と小麦粉と卵を出したところ。

悪かったな。手際が悪くて。

これでも、結構急いでるんだぞ。

「そんなに腹ぺこなのか?」

おやつ食べてないから?

「ううん。でも、悠理君の作ったご飯はいつも美味しいから、早く食べたいだけ」

「…あ、そう」

褒めるのがお上手だこと。

でもまぁ、美味しいと言われて悪い気はしない。

「ちゃんと作ってるから。もうちょっと待ってくれよ。な?この後サラダと味噌汁も作るから」

「そうなの?…あと何分くらい?」

そうだな…。一時間…いや、40分くらいあれば出来るか?

でも、一応長めの時間を伝えておこう。

「一時間くらいかな。60分だ」

「60分…ってことは、長い時計の針が60回回ったら、ご飯出来上がるんだね」

「…そうだな」

「よーし。じゃあ時計見ながら待ってるね」

と言って、壁時計と向かい合ってじー、っと時計を見つめるお嬢さん。

…あんた、食事が出来上がるまで、ずっと時計とにらめっこしてるつもりか?

…まぁ良いや。好きにさせておこう…。