アンハッピー・ウエディング〜前編〜

でも…。

「制服で行ったら不味いんじゃないのか?」

中学の時も、学校の近くにカラオケあったけど。

学校帰りに寄ってるのがバレたら、生徒指導の先生に怒られてたぞ。

「頭お堅いな、星見の兄さん…。別に大丈夫だろ。先生らだって、いちいち見張っちゃいないよ」

あ、そう…。

「そんな訳で、行こうぜ。3人で。良いだろ?乙無の兄さんも」

雛堂は、乙無の服の袖を引っ張って誘った。

しかし、乙無は。

「カラオケって何ですか?」

怪訝そうな顔をして、そう尋ねた。

「え、マジ?カラオケ知らない高校生とか、この世に実在してんの?」

「知りませんよ、人間のことは。僕は邪神イングレア様の眷属ですから」

ドヤッ。

あー、うん成程。そういう設定な?

「カラオケっつったら、皆で大声上げて叫びながら、ドリンクバー全種コンプして、無料サービスのアイスクリームを腹が痛くなるまで食べまくる場所だよ」 

雛堂、お前はカラオケという店を何だと思ってるんだ?

ドリンクバーとアイスクリーム…はさておき、カラオケルームだからって、過度に大声出すのはやめような。

隣の部屋の客に迷惑だからな。いくら防音室とはいえ。

「大声を出して…ソフトクリームを食べる場所?それ、何が楽しいんですか?」

乙無は、眉をひそめてそう言った。

違う。カラオケって多分、そういうところじゃない。

俺も人生で数えるほどしか行ったことないから、偉そうに講釈出来んけど。

もっと楽しいところのはずなんだよ。雛堂の説明が不味いだけで。

つーか、乙無も本当は知ってるんだろ?

「行ってみれば分かるって。な?行こうぜ」

「申し訳ありませんが、僕はこれから忙しいので、お付き合い出来ません」

乙無はにべもなく、雛堂の誘いを断った。

「忙しい?掃除終わったのに?」

「良いですか、僕はイングレア様の眷属として、己の役目を果たさなきゃならないんです。人間と遊んでいる暇はないんですよ」

「学校に来て草むしりしてる暇があるなら、放課後に人間と遊んでくれても良くね?」

「お生憎様。僕にはやるべきことがあるんです。罪の器を満たし、イングレア様に献上しなくては」

…言ってる意味が全く分からんけど。

とにかく、乙無は今日用事があるから、今すぐ帰らなきゃいけないってことだろ?

「ちぇ。付き合い悪いなー…。よし、こうなったら星見の兄さん、自分と二人でカラオケ行こうぜ」

乙無を諦めた雛堂は、俺をカラオケに誘ってきた。

あー、うん…。

付き合ってやりたいのは山々…なんだけど。

「…悪い。俺も付き合えないよ」

「えぇぇぇ!?星見の兄さんまで、自分を裏切るのか!?」

カラオケの誘いを断ったくらいで、裏切り認定しないでくれ。

俺だって、心苦しいと思ってるんだよ。

入学してまた数日しか経ってないのに、こんなに親しく、仲良くしてくれるクラスメイトに恵まれたのに。

放課後、遊びに付き合ってやる時間の余裕は、俺にはないのだ。