アンハッピー・ウエディング〜前編〜

どうやら、教室を移動中のようだ。

やっぱりさっきのチャイム、授業終了のチャイムだったんだな。

午前中の授業を終えたらしい女子生徒達が、教科書を持って移動していた。

「うぉっ…。…女、女だぞ!」

「いてっ。肘で突くな」

見たら分かるっての。

旧校舎の教室には、野郎共しかいないからな。

こうして新校舎に来て、たくさんの女子生徒を見ていると…。

確かに、ちょっと新鮮な気分。

「これが、花の女子高生って奴か…。しかも、全員良いところのお嬢様…」

「…」

「蝶よ花よと育てられた、良いところのお嬢様なんだな…!」

…雛堂はさっきから、何言ってんの?

セクハラ親父みたいなこと言うなっての。

さっきまで、新校舎を掃除させられることに、あれだけ文句言ってたのに。

女子生徒を見た途端、ころっと態度が変わってる。

「すげー良いもん見た!な?眼福だろ?」

「…アホなの?お前…」

目ぇキラキラさせて、何言ってんだ。

あんまり興奮して喋ってると、女子生徒達に聞こえるぞ。

それなのに雛堂は、鼻息を荒くして。

「お嬢様だぞ?あの聖青薔薇学園女子部のお嬢様!平民の自分じゃあ、こんな至近距離で見る機会なんてねーよ!?」

「…別に良いだろ、見なくても…」

俺なんか、毎日家で見てるぞ。お嬢様を。

そんなに面白いものじゃないぞ?星型のにんじんじゃないと食べないとか言うし。

「良い匂いしそうだなぁ…。香水の匂いしてそう」

「…」

「有り難や、有り難や…」

…拝んでる。

お前、それで良いのか。さっきまで生八ツ橋買ってこいとか言ってたのに。

新校舎のお嬢様の姿を見せてもらえるだけで、それで満足なのか。

安い男だな。

「…乙無、お前はどう思う?」

雛堂をスルーして、俺は乙無に尋ねた。

お前もアレか。雛堂みたいに、女子生徒を見た途端、現金に鼻の下伸ばすタイプか?

と、思ったが。

「男だろうと女だろうと、邪神イングレア様のもとに、全ての命は平等です。性別によって区別はしません」

だ、そうだ。

ストイックな眷属様だな。知らんけど。

とりあえず、雛堂が一人で騒いでるってことで。

無視して、掃除の続きしようぜ。

さっさと中庭の掃除終わらせないと、俺達も昼休みに入れない。

早く終わらせて、旧校舎に帰って昼飯食べたい。

…すると。

何かに気づいた雛堂が、俺の服の袖を引っ張ってきた。

「…うぉっ。ちょい、ちょい、星見の兄さん!」

「何だよ…」

「あれ見てよ。めっちゃ美人がいる!」

「はぁ…?」

何言ってんだ、と雛堂が指差す方向を見ると。

そこには、見慣れたうちのお嬢さんの姿があった。