「はぁぁ!?マジで?なんか女子生徒少ねーな、とは思ってたけど…。奴ら、優雅に京都なんか行ってんの?」

「あぁ、そうらしい。お嬢さん…知り合いの女子部の先輩が言ってた」

俺は早速、雛堂にその情報をリークした。

仲間増やしていこうぜ。

「入学オリエンテーションで京都?舐めてんのか。自分なんて、京都行ったの小学校の時の修学旅行だけだぞ」

俺も同じだよ。

ちなみに中学の時の修学旅行は、東北地方にスキーだった。

それだけでも、充分贅沢な旅行だと思ってたのに。

まさか修学旅行ですらない、たがが入学オリエンテーションの為に、三日間も旅行に行くとは。

さすがお嬢様学校。

その間、男子部の新入生が小間使いのように、校内の掃除に勤しんでるとは…思ってないだろうなぁ。

「な?だから言ったじゃん。皆でストライキしようってさ」

「…もう遅いけどな」

本日から三日間、女子部のお嬢様達が優雅に旅行に行ってる間。

俺達男子部の生徒達は、学校に残って掃除中である。

広々とした旧校舎の、使われていない空き教室の掃き掃除と雑巾がけを、ひたすら一日中。

これを、たった十数人の生徒で分担するんだからな。

気が遠くなる作業である。

せめてもの抵抗として、こうして手より口を動かすことによって、憂さを晴らしている。

「旅行行きてぇとは言わんからさ…。せめて、普通に授業始めて欲しかった…」

そう言って、雛堂は雑巾を動かす手を止め、遠い目をして窓の外を見ていた。

だな。

いっそのこと、掃除してる振りしてサボるか?

別に見張られてる訳じゃないし。多分バレねぇよ。

…すると。

「仕方ありませんよ。この世界は所詮、不平等の上に成り立っていますから」

俺と雛堂と共に、朝から一緒に空き教室を掃除している新入生が言った。

…何だよ。その悟ったような言い方は。

「間違ってると思うでしょう?でも、人間の手にはどうすることも出来ないんですよ」

「そりゃあ、まぁ…そう言われたらそうだけど…」

「人間に出来るのは、不平等な世界を嘆くことだけ…。己の運命を己の手で決めることさえ出来ない、無力な存在…嫌気が差すと思いません?」

「…」

「だからこそ、僕は…いえ、僕達は立ち上がったんです。この不平等な世界を救済する為に。それが成し遂げられるのは、我らが唯一神以外に存在しません」

…うん、ごめん。

素朴な疑問なんだけど、こいつ何言ってんの?

つーかお前、誰?

今朝から一緒に掃除してるけど、俺はこいつの名前さえ知らなかった。