――――――さて、お嬢さんの買い物に付き合った翌日。

その日、俺は初めて制服を着た。
 
何の制服かって?

決まってる。この春から通うことになる高校の制服だよ。

何で制服を着るのかって?

それも決まってる。

何故なら今日が、高校の入学式だからである。

家の荷物は片付いてないけど、最低限学校の準備だけは済ませておいたから。

入学式当日になっても、慌てることなく支度出来た。




「おはよ〜…」

入学式の朝、お嬢さんはいつも通り。

眠い目を擦り、大あくびをしながら一階に降りてきた。

だらしねぇって。だから。

あれだけ着替えてこいと言ってるのに、案の定俺のお古ジャージ姿だし。

「おはよう。速攻着替えてこい」

「あのねー、悠理君。昨日面白い夢を見てね」

俺の話を聞けって。

「絵を描く夢を見たんだー。天使の絵だよ。凄く上手でねー、コンクールで賞をもらったんだ」

そりゃ良かったな。

「お友達の人も絵が上手でね、いや、あれはお友達って言うか恋人…。…ふぇ?」

ふぇ? 

眠い目を擦っていたお嬢さんは、台所に立つ俺を見てぽやんと首を傾げた。

…何だよ?どうかしたのか?

「…悠理君、珍しい格好してるね。まるで学校の制服みたい」

「学校の制服だからな」

みたい、じゃなくて。そうなんだよ。

それに。

「あんたも、今日から制服を着るんだろ?学校始まるんだから」

春休みはもう終わりだ。

今日から新学期。俺は高校一年生になり、お嬢さんは高校二年生に進級だろ?

同じ学校とはいえ、俺は男子部、お嬢さんは女子部に分かれてるけどな。

そうだというのに、この呑気なお嬢さんは。

「学校…?」

…何で首を傾げてるんだよ。大丈夫か?

「そう。今日から学校。今日は入学式だよ」

入学式には、新入生である俺は勿論。

在校生のあんた達も、参加するんじゃないのか。

いつまでも春休みじゃないんだぞ。ちゃんと春休みの宿題は済ませたんだろうな?

さすがに、学校の宿題の面倒までは見きれんぞ。俺も。

大体学年違うから、どんな宿題が出たのかも知らない。

「…学校って、今日からだっけ?」

「…そうだよ」

知らなかったのか?

「そっか。今日なのかー」

やっぱり知らなかったらしい。

おいおい…。本当に大丈夫なのか心配になってきた。