アンハッピー・ウエディング〜前編〜

俺の予想通り、待つことおよそ5分ほどで、お呼びがかかった。

早かったな。

店員さんに案内され、二人がけの席に座った。

「わーい。座れた」
 
お嬢さん、大喜び。

しかも、運良く窓際の席だった。

目の前は道路だから、車の往来が見えるだけで風情も何もないけど。

「それで、これからどうすれば良いの?待ってたら持ってきてもらえるの?」

このお嬢さん、ファミレスの基本的な仕組みを全く理解していない。

ファミレスに限らず、外食は基本、まずメニュー表を見て先に注文しないとな。

席に座って待ってても、誰も何も持ってきてくれないよ。

このファミレスは、お冷やですらセルフサービスだから。

格好はだらしないし、食べるものはカップ麺ばかりで、とてもそんな風には見えないけど。

こういうところを見ると、やっぱりお嬢様なんだなーって思う。

「先に注文しないと駄目なんだよ。ほら、これがメニュー」

「メニュー?この中から選ぶの?」

「そうだよ」

「シェフのオススメは?」

「…ないよ」

多分、冷凍されたものを解凍して持ってきてくれるだけだから。

本日のおすすめとか、シェフの気まぐれコースとか、ファミレスにそんなものはありません。

「どのメニューもおすすめってことだね。うーん、決めるのが難しいね」

「あ、でも一応…日替わり定食ってのがあるぞ」

これが今日のおすすめってことで。

「日替わり…?」

「あぁ。今日の日替わり定食は…。鶏肉と野菜の甘酢あんかけだって」

ファミレスの定番メニューだな。美味しそう。

しかし、お嬢さんは。

「にんじんが星型じゃないから、私、これ食べられないや…」

甘酢あんかけに入っている、乱切りのにんじんを指差して。

お嬢さんはしょぼん、として言った。

そのくらい妥協しろよ。

星型だろうが乱切りだろうと、味は変わらないっての。

明日の日替わり定食の献立は、デミグラスハンバーグみたいだから…明日だったらこっちを注文出来たのにな。

日替わり定食あるあるだよな。昨日、あるいは明日のメニューの方が美味しそう。

…まぁ良いや。無理に日替わり定食にする必要はないし。

「他にも色々あるから、好きなの選べよ」

「むむむ…。たくさんあってよく分かんないや」

そんなにたくさんあるか?

こんなもんだと思うけど…。あ、でもお嬢さんがよく行くであろう高級料理店は、こんなにたくさんメニューはないのかも。

それこそ、複数のコースのうちから選ぶだけで。

あとは放っとけば、勝手にシェフが作って持ってきてくれるんだろう。

無月院のお嬢様ともなると、ファミレスでメニューを決めるのも一苦労なのか。大変だな。

どれだけ金持ちになろうとも、俺はファミレスで食事をする、ささやかな幸せを忘れない人間になりたいものだな。

まぁ、俺がそんな金持ちになる可能性は、今のところゼロだけど。