アンハッピー・ウエディング〜前編〜

…10分後。

俺はお嬢さんと共に、近所にあるファミレスにやって来た。

…本当にファミレスで良いのかよ。

「ここがふぁみれす…。初めて来た」

きょろきょろ、と店内を忙しなく見渡すお嬢さん。

挙動不審みたいだからやめてくれ。大人しくしててくれ。

まさか、無月院のお嬢様をファミレスに連れてくることになるとは…。

本家お抱えの料理人が聞いたら、目玉ひっくり返して、とんでもないことだと叫ぶだろうなぁ。

仕方ないだろ?

お嬢さん本人の希望なんだから。

「本当に良いのか…?こんな店で…」

こんな、って失礼なこと言ってごめんな。

俺にとっては充分、贅沢な外食なんだが。

無月院のお嬢様にとっては、生涯足を踏み入れることのない、庶民の飲食店だろうと思って。

個室がある訳でも、分厚い仕切りがある訳でもなく。

お昼時ということもあって、小さい子供連れの家族や。

ぺちゃくちゃとお喋りに夢中な、おばさん連中もいる。

うるさくて、こんなところではとても食事なんて出来ない、と。

お嬢さんは顔をしかめるかもしれないと思ったのだが…。

「凄く賑やかだね。人がいっぱいいる。きっと凄く美味しいんだろうね」

目をキラキラさせて、期待に胸を膨らませていらっしゃる。

…あんた、それで良いのか。

分かったよ。じゃあ、今日はここで食事するとしよう。

しかし、残念なことに現在ファミレスは満席。

名前を書いて、席が空くまで待って欲しいと言われた。

今、丁度お昼時だもんな。

無理もない。タイミングが悪かった。

幸い、待っているのは数人なので、ファミレスの回転率を考えると、比較的すぐに空きが出ると思う。

それでも、お嬢さんにとっては、待たされるのは苦痛かもしれない。

お嬢さん自身は、外食に行って席に着くまで待たされる、なんて経験はないだろうし。

折角来たのに、すぐに席に案内してもらえないなんて、と。

文句の一つでも言うかと思ったが。

「席が一杯になるくらい、沢山の人が来るなんて。きっとすっごく美味しいんだろうね」

うきうきとそう言うので、待たされることにイライラしている様子は全くない。

あんたの、その何でも前向きに考えるところは…素直に長所だと思うよ。